【高校野球メモリアルイヤー】沖縄水産・大野倫 右腕折れても…“ナイチ”に挑んだ反骨773球
2018年05月16日 10:30
野球
その1年前。2年生の夏に県勢初の決勝に進み、右翼手として準優勝に貢献した。守備中にアルプスに目をやれば「指笛のおとうさん」「鉢巻の部員たち」の大声援。大会後は那覇空港で約5000人の県民が出迎えた。来夏こそは、と――。
沖縄は今も昔も甲子園に熱狂する。地元校の登場日は県道の渋滞が収まる。みんな仕事そっちのけでテレビにかじりつくからだ。大野も「テレビの前で空き缶を太鼓代わりにして、祖父らと一緒に沖縄の学校を応援した」と幼少期を思い出す。
沖縄返還翌年の73年生まれ。大人が応援に込める“本土に負けるな”という思いを感じて育った。意識付けを決定的にしたのは、栽弘義監督(07年死去)との出会いだ。豊見城を4度全国8強に導いた指揮官は、沖縄水産に転じて上原晃(元中日)らを育てていた。
「栽先生は戦争で家族を亡くされた。野球の指導者になっても、“どうせナイチには勝てない”と周囲から言われ続けた。沖縄でも全国でやれる。そう示したかったんだと思います」
気鋭の「沖水」に憧れて入学。厳しさは覚悟していた。「いつも緊張感を与えてきた。“ボーッとしてたら手りゅう弾が飛んでくるぞ”と。夏への練習は殺気立っていた」。2年秋からエース。腕組みしたまま動かない監督の前での最長4時間の投げ込みなどで鍛えられた。球速は145キロまで伸びた。
だが、3年生の5月。投球練習中に「変な音がして右肘が吹っ飛んだ」。勝てる投手は自分だけ。仲間に「痛い」とは言えず、隠した。沖縄大会は準決勝前に痛み止めの注射を打って乗り切った。甲子園に行くと、栽監督が宿舎に呼ぶ医師や整体師の施術を受けた。
「結局は骨が折れていたわけですから。何をやっても効かなかった」。懸命に投げた。勝つ。頭にあるのはそれだけ。「甲子園のマウンドで一瞬一瞬が必死で、将来のことなんて考えられる余裕がなかった」。773球を1人で投げきった大会後、検査で剥離骨折が分かった。軟骨も欠けていた。
「投手は、もうやめておきなさい」とのドクターストップ。小学1年から右腕で勝負してきた男は、栽監督に「お疲れさん。よく頑張ったな」と初めてねぎらわれた決勝を最後に、投手生活に別れを告げた。
九州共立大では強打の外野手。巨人入りし、99年春に沖縄尚学の日本一を神宮室内練習場のモニターで見た。「信じられなかった。沖縄もここまで来たかと」。10年夏の興南の春夏連覇は沖縄で高校時代の球友と見守った。
「阿久悠さんは我々の試合の詩に“待ちましょう ほんの少しです”と書かれた。先が見えていたんでしょうね」。58年にパスポート持参で首里が挑んだ初の甲子園に始まり、興南、豊見城、沖縄水産…。挑戦を繰り返し、沖縄は詩にある「強豪県」になった。今では、むしろ有力選手の県外流出が激しい。
今夏の選手権沖縄大会は6月23日に始まる。大野は「100回大会の機会に母校を含め、最近足踏みしている沖縄県勢で盛り上がってみたい。そして甲子園が200回まで続くよう、野球を始める子を増やしたい」と言った。 (井上 満夫) =敬称略=
《阿久悠さん観戦記》 連載十三年目、今年も四十八試合の全試合、大仰に云(い)うなら全球を、目をこらして見た。目(ま)ばたきの間に、とんでもない感動を見逃してしまうのではないかと、半ば怯(おび)えながらである。
そして、ふと、ぼく自身の、高校野球を見る目が大きく変っていることに気がついたのである。
甲子園の中に、キラキラとした才能を見つけようとしていた目が、今年は、はっきりと、今の社会の中で見失われ、軽んじられている当り前の価値観を、懸命に探し出そうとしていたことにである。
努力が報われるとか、正直者は馬鹿を見ないとか、そういったものを、プレイや勝敗の動きの中で追いかけていた。
たぶん、スター不在と云われた今年の大会が、これだけ盛り上がったのも、ぼくと同じ思いの人が増えたからではないかと思う。
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