DH制や育成力だけじゃない。森浩之ヘッドの行動にソフトバンクの強さの根源を見た

2020年12月25日 12:45

野球

DH制や育成力だけじゃない。森浩之ヘッドの行動にソフトバンクの強さの根源を見た
ソフトバンク・森ヘッドコーチ Photo By スポニチ
 【君島圭介のスポーツと人間】ソフトバンクが4連勝で制した日本シリーズで、感心するシーンがあった。試合中に甲斐のミットの紐が切れたときだ。誰よりも速く反応したのが森ヘッドコーチだった。ロッカーにある予備のミットを取りに行ったのだが、それだけではなかった。
 「控えていたメーカーの方にすぐ修理を依頼してくれて。次の回の守備にはもう直ってました」

 そう証言したのは甲斐本人だ。球界の頂点を決する大事なシリーズなら一番頼れる愛用のミットで投手をリードしたい。試合の熱で浮き足だっても仕方ない中で、冷静に修理まで手配したのは工藤監督に次ぐベンチのナンバー2だった。

 森ヘッド自身、捕手出身だ。PL学園中学から高校に進み、同校を初のセンバツ優勝に導いた。東洋大では主将を務め、東都大学野球のリーグMVPにも輝いた生粋の野球エリート。大学日本代表でも主将を務めている。ドラフト2位で南海入り。現役は5年と短いが、ブルペン捕手から作戦コーチなどを経て、昨季からヘッドコーチの肩書きになった。

 野球殿堂入りの候補でもある城島健司氏は現役時代、新品のミットは必ず森ヘッドに預けて形を作ってもらっていた。森ヘッドが捕球するときれいなスポットが出来るという。城島氏はメジャーに移籍してからも毎年、森ヘッドにミットを預けていた。

 「甲斐キャノン」で名を馳せた若き正捕手を見て、森ヘッドは「俺の(肩)はパラシュート」と笑っていた。だが、城島、甲斐という近年の球界を代表する2人の捕手の成長に森ヘッドが与えた影響は計り知れない。

 DH制があるから。育成制度が成功したから。資金力があるから。4年連続日本一を成し遂げたソフトバンクの強さを語るとき、挙げられる理由は多い。もちろん、すべて正解だ。ただ、常勝になるにはもっと根源的な理由がある。それは人材だと思う。

 GMや監督が替わるとコーチングスタッフも総入れ替えとなる傾向がある。ところが監督が信頼する腹心のコーチ、スコアラーで固めると、一時の強さは得られるが、退任とともにチームは落日を迎えるケースが多い。ホークス一筋34年。裏方でも表舞台でも多くの監督を支え続けた森ヘッドのような人材が、強さの根底にあるのは間違いない。

 ところが、だ。その森ヘッドが屋台骨である3軍の監督に配置転換になり、代わって小久保裕紀氏がヘッドコーチに就任する。最強の状態でも慢心しない。常に混ぜ返さなければ水は澱(よど)む。一時的なハレーションを生むことがあっても、結果的にチームは前進している。それがソフトバンクが常勝たる理由だ。(専門委員)

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