メジャーリーグはもはや、すべてを賭ける夢舞台ではないのか

2021年01月08日 14:00

野球

メジャーリーグはもはや、すべてを賭ける夢舞台ではないのか
巨人・菅野 Photo By スポニチ
 【君島圭介のスポーツと人間】非常事態宣言下の朝、そのニュースを目にした。ポスティングによる米移籍を目指した巨人・菅野智之だったが、MLB公式サイトによればメジャー球団と契約合意に達しなかったという。
 残念、とは口にしない。菅野側が能動的に選択した結果なのだ。4年総額5600万ドル(約58億2000万円)以上と報じられた移籍希望額が本当なのかは別として、日本で2度沢村賞を獲得した投手なのだ。それほどの価値はある。

 コロナ禍で経営に苦しむメジャー球団側と折り合わなかっただけだ。ちまたのビジネス市場では日常茶飯事だろう。ただ、そこに「夢」という単語が挟まると、とたんにやっかいになる。それは我々が野茂英雄、そして大谷翔平が夢を実現する姿を見てきたからだ。

 報酬ではなく信念を貫いて海を渡った野茂の活躍は痛快だった。大谷はMLBの労使協定でルールが変更となり、ポスティングでもメジャーの最低保証年俸程度でしか契約できなかった。それでも米国で「二刀流」を貫いてきた。

 野茂は所属していた近鉄球団とケンカ同然で日本を去らざるを得なかった。それに比べれば、巨人から4年契約を提示されて残留を求められたとされる菅野は立場が違う。選択の余地があり、今年も古巣のマウンドに立つことを選ぶとしても不思議はない。

 今回の菅野の件で感じるのは、日本の球界が選手の選択肢としてメジャーリーグと肩を並べるところまで来たのかという思いだ。菅野の米移籍断念は残念なことではない。残念なのは、それを切り開いた野茂が今、NPB12球団のユニホームを着ていないことの方だ。

 選手にこれほど広い選択の余地が与えられていることは素晴らしい。12球団が会議を重ねて、よりよい球界を作ろうと苦心した結果であり、日本プロ野球選手会が声を張り上げ、体を張って選手を守り、戦ってきた成果である。

 しかし、プロ野球選手はビジネスマンではない。低い金額で米移籍をせざるを得なかった大谷を送り出した日本ハムの、当時の球団幹部に「あんなに安い移籍金は不当では?」と聞くと、その幹部はこう言い返してきた。

 「しょうがねえだろ、翔平が行きたいって言うんだから」
 大谷を快く送り出した日本ハム球団は男前だし、菅野を再び迎え入れる巨人球団の親心も分かる。どちらも野茂が海を渡ってから、反省とともに成長した日本プロ野球の素晴らしい姿だ。(専門委員)

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