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【内田雅也の追球】「夏」の「あと200時間」

2024年09月27日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「夏」の「あと200時間」
1973年10月22日、巨人との最終戦決戦に敗れた試合後、取材に応じる阪神・田淵(甲子園球場) Photo By スポニチ
 阪神、巨人がともに最終戦で優勝を争った1973(昭和48)年のシーズン終盤、当時雑誌記者で同行取材していた山際淳司は旧広島市民球場で阪神監督・金田正泰が「優勝まであと二百時間だ」と言ったとノートに記している。
 <まわりにいた記者たちは一瞬、えっという顔を見せた>と、著書『最後の夏 一九七三年巨人・阪神戦放浪記』(マガジンハウス)にある。10月14日の広島戦試合前のことで、シーズン最終戦(21日予定)までの時間を指していた。

 同日の広島戦は2―5で落としたが、巨人も大洋(現DeNA)に4―5で敗れた。当時のスポニチによると、大洋監督・青田昇から夜、広島の定宿リバーサイドホテルの金田に電話があり「何をもたもたしてるんや、しっかりせんかい」と激励された。巨人V9阻止を誓った同志だった。

 いまの阪神も広島にいて、レギュラーシーズン最終戦(10月3日)まで、あと200時間ほどである。<泣いても笑ってもその日までには優勝は決まっている>わけだ。

 この200時間に泣き笑いし、最後に泣いた。日々の戦いは<たかだかゲームが、人に希望を抱かせたりするものだ>。

 いまの阪神もまた、そんなチームだ。連覇に挑み一時は首位から離されながら、また食らいついている。人はその戦いに希望をみる。当欄に届く声でもわかる。阪神に生活や人生を重ね合わせる多くの人びとがいる。

 この山際のルポでは「夏」が印象的に使われている。冒頭に<一九七三年の夏、ぼくも含めて野球ファンは迷宮のなかにいた>とある。9月から10月22日、あの甲子園での決戦で巨人優勝、阪神2位が決まるまでを描き、季節は秋のはずだが、タイトルも<最後の夏>である。終章は<田淵の夏の終わり>だった。

 この「夏」は野球シーズンを指している。アメリカでは野球は夏のスポーツであり、大リーガーを含め、野球選手は「ボーイズ・オブ・サマー」(夏の少年たち)と呼ばれる。夏の暑さは戦いの熱さにも通じている。

 この日、練習を行った甲子園も移動した先の広島も暑かった。また夏がやって来た感じがする。

 ナイターで巨人は勝った。それでもまだ阪神の「夏」はまだ続いている。最後の200時間を見届けたい。 =敬称略= (編集委員)

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