狙われた左足 コラレス・内山戦で繰り返されたあるシーン

2017年01月06日 09:30

格闘技

狙われた左足 コラレス・内山戦で繰り返されたあるシーン
<WBA世界Sフェザー級タイトルマッチ コラレス・内山>偶然なんでしょうけど…。少し踏みすぎじゃあ Photo By スポニチ
 【長久保豊の撮ってもいい?話】「ボクシングの撮影は脚を見ろ」と言ったのは今は亡き先輩である。「ジャブを何枚も撮ってもしょうがない。力のこもったストレートを打つ時は脚のふくらはぎの筋肉がピクリと動くから。そこでシャッターを押すとインパクトの瞬間が撮れる」。
 36枚のフィルム撮影の時代。先輩たちは一眼レフではなくライカやニコンSPといったレンジファインダー機を愛用していた。シャッターのタイムラグが少なく、シャッターが落ちているときにもファインダーが暗転しないのがその理由。1回シャッターを押すごとに親指で巻き上げるから被写体との対峙感は、はんぱじゃない。フェイントに引っかかりシャッターを押していたのではフィルムなんてすぐに無くなる。ボクシング撮影はボクサーたちとの勝負の場であった。

 あれから28年。脚ではなく足を見て撮影する日が来るとは思わなかった。大みそかのジェスレル・コラレス−内山高志戦はスタンド最上部から400ミリ望遠レンズを構えた。

 リベンジマッチの序盤は互いが抜き身の刀で斬り合うような戦いだった。時折、間合いを詰めて切り結ぶがコラレスは内山の強打を恐れたし、内山は前回のKO負けという体の記憶と戦っているようだった。

 中盤、コラレスのスピードは落ち、攻撃パターンも単調になる。だが内山は詰め切れない。なぜ詰め切れなかったのか。

 5R以降のコラレスは前回の試合では見せなかった“技”を使い出す。クリンチもその1つだが目についたのは足技というか足クセの悪さである。

 彼が狙った?のは顔面でもボディーでもない。前に出た内山の左足だ。

 右構えと左構えだから前に出した足が交錯するのは仕方がない。だが巧妙に、時としてわざとらしく足を踏みに来た。写真で見る限り5R以降にそれは顕著になり、各ラウンドに渡ってこの“技”を駆使した。プロの世界だから先に踏み込まれた方が悪いという見方もある。レフェリーが注意をしないのだから偶然なのだろう。内山がそれを敗戦の理由にしない男だとわかっているからモヤモヤした気持ちは残る。

 試合後に内山は「やりづらかった」と答えた。クリンチやその他についても、それもテクニックだからとした。そして「不完全燃焼ではないが余力を残しちゃったのがつらい」と。

 37歳の彼にもう一度リングへ、とは言えない。だが長いこと王者・内山と年越しをしてきた者としては、この戦いをラストバトルにしてほしくないという思いはある。右脚のふくらはぎの筋肉をピクリとさせて放つあの右ストレートをもう一度だけ撮りたい。勝負したい。わがまま言ってすまないと思う。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。ボクシング経験者だが、すごく弱い。ちなみに日本ハム・杉谷選手のお父さんのファンでした。

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