唐沢寿明主演映画で脚光…スーツアクター、マスクの下の素顔とは
2014年02月23日 07:50
芸能
マスクを脱いだヒーローや怪人の姿は、撮影現場でしか見られない。日本で現役バリバリのスーツアクターは約30人。人手不足で、同一作品でヒーローと怪人を演じることも多い。
ケガは日常茶飯事で、20代のBさんは「肩のじん帯が伸びている。完治しないままやってます」と苦笑い。女性アクターのCさん(23)も膝の骨にヒビが入ったというが「辞めたいと思う時もあるけど、良いアクションが撮れると辞められない」と達成感を強調する。
ただでさえ危険なアクションを、視界の狭いマスクをかぶってこなす。この道約20年のAさん(44)でも「そりゃ怖い。ゴーグルが曇ったり大変」と話す。スーツの素材も年々進化しているが「軽さや伸縮性などは上がったけど、暑いのは変わらない」。演技後の顔は汗だくだ。一般のスタントマンにない苦労がある。“変身前”の俳優のクセを踏まえた動きも重要だという。言葉を話せない分は、動きでカバーする。Aさんは「表情が見えなくてもしぐさで感情は出る。顔出しの俳優さんと違う面白さがある」と話した。
スーツアクターは、日本独自の職業。特撮変身ドラマが数多く放送される日本で、数十年にわたり進化を遂げてきた。スーツアクターを目標にこの世界に入った人も多いが“顔出し”しての活躍を夢見る人も多い。「イン・ザ…」ではスーツアクターが「いつか自分の名前と顔を大スクリーンに映し、凄いアクションをしてみたい」と漏らす場面がある。
唐沢はスーツアクター出身で、ライダーマンのマスクをかぶったことがある。アクション俳優を目指しながら、顔出しの俳優として有名になったが、今作の脚本を読み「これは俺のことを描いたのか」と苦笑いした。
李鳳宇プロデューサーは、アクションスターが生まれにくい日本独自の事情を指摘する。「今は小説や漫画など、原作つき作品の映画化ばかりになっている。膨大な資金と時間が必要なアクション作品は日本では作りにくい」。アクションを目指す俳優の主戦場が、スーツアクターとなっている現状がある。
脚本を手掛けた水野敬也氏は「誰も知らないところで、とてつもない仕事をしている人がいる。そんな人に光を当てたかった」と力を込める。
スーツアクターは、私生活でも周囲に正体を明かさない。自身が演じるヒーローや怪人は秘密だ。Cさんは「子供の夢を壊しちゃいけませんからね」。Aさんは「“その人はお友達だよ”と言うのがギリギリ」とほほ笑んだ。Bさんは「自分のアクションで、いいシーンが撮れたら満足。顔出しの俳優さんを含め、キャストとスタッフの共同作業」。立ち姿に、特撮変身ドラマを支える影のヒーローの誇りがにじんだ。
▽イン・ザ・ヒーロー 本城渉(唐沢)は、その道25年のスーツアクター。戦隊ヒーロー映画で人気アイドル(福士)と対立しながら撮影を続けていたある日、思わぬオファーが来る。ハリウッドのアクション大作への、素顔での出演。だが、ワイヤなしで高所から落下し、炎にまみれて戦う演技が求められる。「日本にアクション俳優はいない」という米映画スタッフの言葉に、忘れていた情熱がよみがえる。