「天皇の料理番」完成度と史実を両立させた乾パンカツレツ
2015年05月31日 09:00
芸能
そんな中、脇氏の頭を一番悩ませたのは演出、脚本家のリクエストに合わせたメニュー作りだった。
ひとつは「カツレツをもっとおいしそうに見せたい」。当時のレシピで作るカツレツは厚みに欠けるため、その薄さをカバーするために思いついたのが衣に乾パンを用いること。「当時軍隊にあったものですし、パン粉の代わりにこれを荒砕きにして使えないものかと」。これが大成功。乾パンには糖分が含まれているため早めに衣が茶色く色がつき、肉はピンク色、ジューシーさが残る仕上がりになる。同時にサクサク感もあり、試食した佐藤健も「うまいっす」とうなる逸品となった。
そしてもうひとつの難題「失敗した料理をリカバリーできるようなアイデアはないか」。篤蔵を皿洗いから野菜担当へ昇格させるためのきっかけにしたい…。第3話、(篤蔵が修業中の)華族会館内でローストビーフを焼きすぎた場面がそれだ。
騒然とする厨房内で、篤蔵が牛肉を布で縛ってブイヨンで煮ることを進言し、最終的には調理時間を短縮でき、客へおいしいものを提供することができた。篤蔵の機転のよさを表現。「あれは相当考えました」と充実感をのぞかせる。
監修する上で、脇氏が参考にしているのが近代フランス料理の父・オーギュスト・エスコフィエ氏による“シェフのバイブル”「料理の手引き」。脇氏がパリで修業していた際に古本屋で見つけ購入したものだ。「もう一度初心に帰って」背表紙がはがれるほど読み直し、アイデアを膨らませながら、なるだけ当時の料理に近づけるよう模索していった。
本来、宮中の料理やフランス料理を扱う作品では、日本の格式高いホテルや料理学校が窓口となるが、今回はそのどちらでもなく、しかも女性の脇氏にTBS側が白羽の矢を立てた。「なぜ私を起用したのか、今さら怖くて聞けないわ」と笑いつつ、それでも「型を破りたいという部分があったのかもしれませんね」。局側の意図を汲み取り、乾パン利用をはじめとする斬新なアイデアや料理の史実に矛盾のないクオリティーの高さを提供している。
「起用理由がどうあれ、自分の中では名誉なことだと真摯に受け止めて、誠心誠意、これ以上出しきれないという思いでぶつかっています」。俳優陣の演技だけでない、脇氏が胸を張って送る、料理という “出演者”たちにも注目だ。