柄本明が見る「人間という愚かなもの」硬軟自在 独自の視点が秘けつ
2016年03月20日 10:25
芸能
演劇の道に進むきっかけは、19歳の時に受けた“笑撃”。映画好きの両親の影響で子供の頃から映画館に通い、中村錦之助(のち萬屋錦之介)さんに夢中になったが、「見るのとやるのは全然別」と、高校卒業後は商社に入社。会社の先輩に誘われ、1960年代の小劇場運動の拠点の一つだった「早稲田小劇場」に行き、人生が変わった。
「くだらなくて笑えたんですよね。くだらないっていうのは僕の言い方なんだけど、価値のないものをみんなで一生懸命やってる感じ。アングラ演劇とかそういう場所が格好良く見えてね。若い時ってバカだから」
劇団「マールイ」や「自由劇場」を経て、76年に「劇団東京乾電池」を結成。舞台だけでなく、ドラマや映画にも引っ張りだこになり、シリアスな演技も見せれば、バラエティー番組で志村けん(66)とコントもやる。
「物凄くアナーキーに言ってしまえば、生きてること自体くだらないでしょ。見方や角度を変化させて、いろんな角度から人間という愚かなものを捉えていく。“俺はおまえのことを絶対忘れない”というセリフがあって、それをどういうふうにやるか。ある角度から見れば物凄く笑えるでしょ。人間ってそういうこと言うんだなって」。とつとつとした語り口から一転、目の端にしわを寄せて「ヒャッヒャッ」と心底愉快そうに笑った。この視点がどんな人物にもなりきる秘けつだ。
東京乾電池は今年結成40周年。「別に何の感慨もないですけどね。会社と違って利益を出さなくちゃいけないとかじゃないから、やりたければできる。僕なんかたまたま映像の仕事を頂いて、続けていられる。需要と供給があって、運が良かったんでしょうね」
映画「モヒカン故郷に帰る」(監督沖田修一、4月9日全国公開)でも、愛すべき愚かな人間を体現。演じるのは主人公(松田龍平)の父親で、故郷のスター、矢沢永吉命の型破りな役どころ。末期がんで死期が迫ったシリアスな状況だが、息子にタバコをねだるなど、悲哀と滑稽さを織り交ぜ作品に笑いとぬくもりを加えている。
自身の人生を照らし合わせ「死ぬのはだいぶ近くなってきた。痛くなく死にたいね。まあでも、死ぬっていうことは、精神的なことも含めて人間はのたうち回るんじゃないですかね」。劇中では、死ぬ前にもう一度思い出のピザを食べ、憧れの永ちゃんに会いたいと切望。「あれもやりたい、これもやりたいって、できればそういうワガママを言わない人間になりたいと思うけど、どうですかね。どっちにしたって死ぬなんて時は迷惑をかけるんでしょうね」
◆柄本 明(えもと・あきら)1948年(昭23)11月3日、東京都生まれの67歳。80年からフジテレビのバラエティー「笑ってる場合ですよ!」で時事コントのコーナーを担当。99年に映画「カンゾー先生」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、04年に「座頭市」「花」などで毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。11年に映画界への貢献が評価され紫綬褒章を受章した。最近の出演作は、フジテレビ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」、映画「人生の約束」。1メートル75。