古舘伊知郎氏自ら明かす トーク中の脳内 しゃべりの原動力

2016年07月09日 08:00

芸能

古舘伊知郎氏自ら明かす トーク中の脳内 しゃべりの原動力
「人志松本のすべらない話」に初参戦した古舘伊知郎氏
 フリーアナウンサーの古舘伊知郎氏(61)が第30回を迎える話芸の祭典、フジテレビ「人志松本のすべらない話」(9日後9・00)に初参戦する。3月31日に12年間務めたテレビ朝日「報道ステーション」のキャスターを卒業。6月の復帰後、バラエティー番組などに出演し、衰え知らずの話術は絶賛された。しゃべりの最中の脳内は?トークの原動力は?歴戦のお笑い芸人たちとの異種格闘技戦を終えた直後の古舘氏を直撃した。
 収録後、ホストを務めるダウンタウンの松本人志(52)から言われた。「僕ら芸人はインパクトで『こんな話、エエんかいな』みたいなところから入ると。まず引き付けると。古舘さんが“変”なのは『高校2年の秋口だったと思いますけど』みたいな感じで、サラサラサラッと、毛穴にスーッと浸透するような感じで入る。さり気ないのは、僕ら芸人にはマネできないと」。意外な“褒め言葉”だった。

 「アナウンサーとしてはバーッとしゃべり出すので『うるさい』とか言われていたから、サラッとしゃべり出していると言われたんで、驚きました。もし、そうだとすれば、こういうのは自覚した方がいいかなというふうに、ちょっと思いました」とした上で「じゃ、なんで、サラサラサラッとしゃべり出しているかというと、その時、脳内はどういうイメージなんだというと、完全に映像をしゃべっているんです。僕はやっぱり描写なんです。実況中継なんです」と古舘節の“メカニズム”を明かす。

 「きょうは38年前、入社2年目のエピソードを話しましたが、しゃべっている最中は38年前の景色が脳内に広がって。だから、集中して、しゃべり過ぎちゃんです。集中して、しゃべり過ぎて、オチなんて関係ないですから。昔の無声映画の弁士みたいに、ただ映像を追っているんですから。ずーっと映像を描写していますから『こういういった話なんですけど、ごめんなさい、ちょっとオチがなくて』となっちゃうんです。オチのことなんて考えてませんから。ウケたいっていうスケベ根性はもちろん、どっかでありますよ。だけど、オチを作ろうとか思わないですね。どんな話も、それの繰り返しです。芸人さんは出来事を再現するために描写もされるけれど、どこがおもしろいんだ、どこでズッコケんだと、アクセントをつけて話を構築していきますよね。どこでバズーカ砲を打つんだ、ここは散弾銃でタッタッタッとやるんだみたいな。僕はどちらかというと、もっと平坦。自分がおもしろいと思った映像をずっーと描写しているに過ぎない」

 芸人の話しぶりには大いに刺激を受けたが「僕はマネしちゃいけないと思うんです」と自制。それでも「マネしちゃいけないけど、やっぱりうまいな、おもしろいなと思うと、人間ってマネしたいんですよ」と心は揺れる。「ミラーニューロン」という神経細胞を持ち出し、胸中を説明した。

 「人間には、ミラーニューロンという神経細胞がありましてね。イタリアのある脳科学者が発見して、ヒトゲノム解析プロジェクトがなければノーベル賞を獲ったとまで言われているんですけどね。人は赤ちゃんの段階からマネをするんです。例えば『かわいいわね、ご機嫌いいわね』と母親が小さなベビーベッドの上から赤ちゃんを見下ろすようにのぞいている。お母さんが笑っている顔を見て、赤ちゃんもクッと口角を上げて笑ってみせる。これは、脳内のミラーニューロンが反応したもの。つまり、赤ちゃんは笑っているんじゃないんです。笑うという感受性は、まだ持ち得ていないですから。お母さんの顔マネをしているわけです」

 古舘氏も物心がつく前のおぼろげな記憶として、家の庭先で「神宮前!神宮前!」と叫んでいたことを覚えている。東京都北区滝野川出身で、神宮前(渋谷区)と縁はない。祖父の家に遊びに行った時、神宮前に住んでいた人が「おじいちゃんは恩人です」と訪問し、仏壇の前で泣いていたという。その時、その人が口にしていた「神宮前」という言葉をマネしたのではないか。「だからミラーニューロンって、すごいんですよ。話が長くなりましたけど、僕、芸人さんのマネをしちゃうと思います。それは僕が悪いんじゃない。ミラーニューロンのせいですからね」と笑いを誘った。芸人のマネをしたら、従来の古舘氏にない新しいトークスタイルが生まれる?と水を向けると「かもしれないですね。60過ぎても、人間は成長していきますから。1年以内に結論が出ると思います。スポンジのように吸収するのか、ドツボにハマるのか、見ててください」。新境地開拓が大いに期待される。

 最後に、しゃべりの原動力について尋ねた。

 「黙っていると、グーッと沈むんですよ、僕。部屋で1人でいる時、黙ってるじゃないですか。どんどん暗くなるんですよ。収録のカメラが回っているところでもいいし、こういう取材の場でもいいし、飲み会でも何だっていいんです。しゃべっている時って、自分が沸き立ってくるんですよ。すごく楽天的で楽観的でハッピーな自分になれるんです。ずーっと通奏低音で、ベースの音なのかドラムの音なのか分かりませんが、しゃべっている時にリズムが刻まれていっている感じがするんです」

 「人のハイテンポな話を聞いていると、ミラーニューロンが作動していますから。きょう芸人さんのおもしろい話を聞いている時、自分の声帯が震えているの分かるんですよ。一緒にしゃべってマネしているんです。だから、あまりにもおもしろい話の時は、聞いているのも、しゃべっているうちなんです。自分がしゃべっている方がもっと沸き立ちますよ。だけど、通奏低音として自分の身のうちに入ってきちゃうんです」。驚いた。そんな現象まで起こっているのか。

 「みんなで1つじゃないかと。人間というのは基本的に島じゃないかと。大干潮で水が引いた時、海底も何も島も全部、地続きで1つになるでしょ。そして、海が満潮になると、それぞれ島々になる。それと同じで、バラバラの1個体1個体でいるけど、芸人さんの話を聞いて『うまいなー』『おもしろいなー』『オレにはできない』と思うと、できないながらも僕の声帯も震えているんですよ。勝手にコミットしちゃうというんですか」

 さらに話は広がる。脳の言語中枢には「ウェルニッケ野」と「ブローカ野」がある。「言ってみれば、ウェルニッケ野は辞書。一方で発話というのは、舌や唇が動く、その他の筋肉も動く運動回路で、ブローカ野の領域。2つが連携して僕はしゃべる。アナウンサー調のまじめな話は、ウェルニッケ野からフォーマルな言葉を出しています。ワーッとしゃべっている時はフォーマルな言葉なんか要らないから、どちらかというと、ブローカ野、発話中心。パッパパッパしゃべって、これはこれで自分が沸き立ってくる。『おっ、ウェルニッケ野、出てきたな』とか『ブローカ野が先走ってるな、おまえ』とか、2つが自分の中でつばぜり合いとか連携プレーとかキャッチボールとかをやっているんで、もうこれは、しゃべらずにはいられないんです。『報道ステーション』の時は、しゃべり出したあたりでコマーシャルやVTR。だから、毎日が難行苦行」。難しい話になったかと思いきや、最後も見事に笑いで締めた。

 生まれながらの“しゃべり手”古舘氏が今夜、満を持して「すべらない話」を繰り出す。

 【第30回キャスト】松本人志、千原ジュニア、宮川大輔、河本準一(次長課長)、ケンドーコバヤシ、星田英利、兵動大樹(矢野・兵動)、小籔千豊、宮迫博之(雨上がり決死隊)、古舘伊知郎
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