五輪観戦記で「読むオリンピック」2トップは沢木耕太郎氏と村上春樹氏
2016年08月04日 07:25
芸能
そういえば沢木氏はアトランタ大会時、筆者と同じ宿だった。エレベーターホールの自動販売機前で一度だけあいさつしたっけ。おそらく覚えていないだろうけど。
その沢木氏には「オリンピア ナチスの森で」(1998年・集英社)という著作もある。1936年のベルリン大会が題材なので観戦記ではないが、細かい周辺取材を重ねるお得意の上質ルポルタージュだ。世界大戦前夜のドイツで開催された祭典。オリンピックとはなんだろう?と考えさせられもした。
ちなみにこの両氏、1984年ロサンゼルス大会を扱った「Number特別増刊 1984年夏、一瞬の輝き」(文芸春秋)に観戦記を同時寄稿している。沢木氏は現地から、村上氏は日本でテレビを見ながらという違いがあるものの、ともに作家らしい独特の視点があり、読み応え十分だ。
村上氏の表題は“「オリンピックにあまり関係ない」オリンピック日記”で、本当にオリンピックに関係ない話が中心。やれカール・ルイスだ山下泰裕だと大騒ぎの世間をよそに、よくもここまで私的な日常を描ききったものだと感心してしまう。新聞のテレビ欄に「解説・上村春樹」とあるのを発見し、「どんな人なのかちょっと見てみたいような気もする」としながら、柔道そのものには「まったく興味ない」とばっさり!適度な脱力感は快感でもある。
2トップ以外では奥田英朗氏の「泳いで帰れ」(2004年・光文社)も必読だ。アテネ五輪を現地で観戦した直木賞作家の、肩の凝らない文体が楽しい。タイトルの由来は作品の終盤に明らかになるが、「感動をありがとう」的なステレオタイプとは真逆の展開にウンウンとうなずくこと必至。もう一度読み返すぞ。
そんなわけで五輪開幕前から睡眠時間が削られている。いつ寝ればいいんだろ。(記者コラム・我満 晴朗)