ハイスタ、ゲリラ発売が成功した理由 時代と真逆“消費物”ではない音楽

2016年10月19日 09:25

芸能

 「Hi―STANDARDが16年ぶりのシングルを緊急発売」――。たしかこの文言だったと思う。移動中の電車に座ってスマートフォンでニュースをチェックしていた時、たまたま見つけたこの見出しに心が躍った。メロコア全盛期に青春を過ごした30~40代には、同じ気持ちだった人もいるだろう。仕事帰りにレコード店に駆け込んだことは言うまでもない。
 今月5日、3ピースバンド「Hi―STANDARD」が4曲入りのシングルCD「ANOTHER STARTING LINE」を発売した。16年ぶりという事をのぞけば、バンドがCDをリリースすることは、ごく当たり前の事だろう。だが、事前告知が一切ないのは異例だ。しかも店頭販売のみ。通販と配信は発売3週間後の今月26日から。つまり、「CDを買わなければ聴けない」という、配信が定着した昨今の音楽シーンでは考えられないことだった。

 結果はどうだ。オリコン週間チャートで初登場1位。売り上げ枚数は13万6000枚。握手会などのイベント参加券を封入し付加価値を高めて枚数を稼ぐシングルCDが多い中、これは堂々の数字だ。

 なぜこの手法が成功したのか。当然、ハイスタの新作への渇望が1番だ。2011年に主催の野外フェス「AIR JAM」で復活して以来、彼らは新譜を出していなかった。飢えに飢えたキッズたちは、まだまだハイスタを聴きたかったはずだ。ただ、それだけが理由ではないと感じる。

 その一つは、音楽が“消費”されているかどうか。大手レコード会社の宣伝手法は、発売前に多く露出して、宣伝効果を得るということに重点を置いている。テレビ、ラジオでCMを流し、街中にどデカい看板を立て、雑誌に広告を打つ。ユーチューブでも早くからミュージックビデオが見られるし、配信で先行発売することもある。発売日に「あれ、この曲まだ発売してなかったの?」と面食らうことも多々。発売時には既に消費されきってしまっている。

 そんな時代に、真逆の売り方。CDを買わない限り、どんな曲なのか分からない。CDには出来たてホヤホヤのままの曲が入っている。関係者には発売を知っている人もいただろう。情報が全く漏れなかったこと、そして漏らす人がいなかったことが嬉しい。

 レコード店に着く道のりが長く感じた。CDジャケットがズラリと並ぶコーナーを見つけた時のワクワク感。視聴器は同世代の男性が使っていて聴けない。う~ん、家に帰ってから聴こう。また家までの道のりが長い…。こんな気持ちでCDを買ったのは何年ぶりだっただろうか。そんなことを思いながら聴く新曲は、期待を裏切らないものだった。
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