ラジオだから見えるものもある
2016年12月07日 09:10
芸能
彼の語りによって津波が見えた。もちろん見えるはずはないのだが、見えた気がした。少なくとも津波の恐怖を再び実感することができた。私は東日本大震災の津波を体験していない。震災直後はテレビの映像を見て恐怖を感じたが、最近はそのような映像を目にすることもなくなった。被災者の心情などを考えれば、今、あの恐ろしい津波の映像をテレビで流すことは不可能だろう。ならば、話を聞くしかない。その媒体として、ラジオは最適なのではないか。語る人の声を聞くことで、語られる事象をより切実に感じることができる。何の映像も介在しない分、その事象をより深く想像することができる。語る側も目の前にカメラがない方が語りやすい面もあるだろう。
この番組は日本民間放送連盟の「日本放送文化大賞 グランプリ(ラジオ)」を受賞した。審査講評には「震災から5年の月日がたった今だからこそできる時宜にかなった企画。被災者たちの心の復興が大きなテーマであることにあらためて気づかされる。的確な取材によって、子どもの素直な“語り”に現れる本音を聞き出しており、その繊細な感情にふれることができた」と記されている。12月31日午後2時からニッポン放送で再放送される予定という。
番組の中で専門家は、いまだに口を閉ざしている被災者について「語らなければいけない。語ることで前向きな心を獲得できる。語らないことは危険で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる。そろそろ語らないといけない。泣かないといけない」と話していた。
災害は東日本大震災だけではない。事件や事故だってある。ラジオで話を聞くべき人たちは日本全国にまだまだ数多く存在する。(専門委員)
◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。