父も絶賛する芸の充実 染五郎、幸四郎襲名で「歌舞伎職人」の道追求を

2016年12月10日 14:30

芸能

父も絶賛する芸の充実 染五郎、幸四郎襲名で「歌舞伎職人」の道追求を
襲名披露発表を行った(左から)松本金太郎、市川染五郎、松本幸四郎 Photo By スポニチ
 市川染五郎が2018年1月の歌舞伎座公演から、十代目松本幸四郎を襲名することになった。現在、父が名乗っている歌舞伎の大名跡。歌舞伎ファンの中でも「まだ早いのでは?」とか「機は熟した」とかさまざまな意見があるだろうが、個人的には「ああ、なるほど」と合点がいった。
 とにかく、今年の染五郎は充実していた。5月には米ラスベガスで初の歌舞伎公演となる新作歌舞伎「獅子王」を上演。海外の人々に日本の古典芸能の魅力を存分にアピールした。

 帰国後の8月には歌舞伎座で「東海道中膝栗毛」の弥次さんを演じるが、自身の海外公演をパロディー化して、弥次喜多コンビがラスベガスへ向かうという奇想天外なストーリーを上演。完全に振り切れた演技で、格式高い歌舞伎座をラスベガスの劇場のように笑いと手拍子で包んだ。

 打って変わって先月の歌舞伎座での中村芝翫襲名披露公演では、重厚な歌舞伎の名作「元禄忠臣蔵・御浜御殿」で仇討ちに命を賭ける富森助右衛門を熱演。徳川綱豊を演じた片岡仁左衛門と丁々発止を繰り広げた。人間国宝で歌舞伎界随一の芸達者を相手に一歩もヒケをとらない気迫には、客席で見ながら思わず身を乗り出した。

 そばでずっと見ていた父は、息子の充実が手に取るように分かったのだろう。染五郎と同時に松本白鸚を襲名する幸四郎は襲名発表の席で「親が言うのもどうかと思うのですが、染五郎の芸はすでに器からあふれている。松本幸四郎という名前にその芸を詰め込んでほしい」と、控えめながらも親として最大級の賛辞を述べている。

 父・幸四郎はミュージカル「ラ・マンチャの男」をはじめ歌舞伎以外でも大活躍している。その父で、染五郎には祖父にあたる八代目松本幸四郎も、文学座の公演に出演するなど歌舞伎以外の演劇にも積極的だった。元はといえば七代目松本幸四郎が進取の気性に富んでおり、シェイクスピアの「オセロ」に挑戦するなど、芸に壁を作らない高麗屋の伝統を体現した人物だった。

 染五郎も高麗屋の伝統に漏れず、ミュージカルや現代劇の舞台、映画やテレビドラマなど幅広い分野で活躍している。ただ十代目松本幸四郎を襲名するにあたって「勧進帳の弁慶をはじめ、高麗屋の伝統芸を自分なりに昇華したい。僕がなりたいのは歌舞伎職人なんです」と本道への並々ならぬ決意を語っている。

 高麗屋の歴々の人物も、さまざまな挑戦を続けてきたのは歌舞伎役者としての芸を突き詰めるためだった。きっと、草葉の陰で十代目の誕生を楽しみにしていることだろう。 (記者コラム)
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