窪塚洋介 大逆転ハリウッドデビューのワケ 巨匠は言った「君がいて助かった」
2017年01月15日 16:26
芸能
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今から7年ほど前。本作のビデオオーディションに臨んだ。控室と聞かされた部屋のドアを開けると、そこは何とオーディション本番の会場。あろうことか、ガムをかみながらの登場となってしまった。「もう“はめられた!”ですよ。でも時すでに遅し。キャスティング・ディレクターから近距離で“スコセッシ監督はあなたのような無礼な若者は大嫌い”と超キレられて」。
ならば演技力で挽回といきたいところだが、若気の至りもあった。「実はセリフも覚えていなくて、セリフが書かれた紙を見ながら演じようとしたら“この期に及んでお前は……”というリアル沈黙の険悪ムード。それに打ち勝てたら良かったけれど、完全に空気にのまれました」。監督に会う以前の問題。自分を置いてきぼりにして「スコセッシ号という船が出港する汽笛が聞こえた気がした」。自業自得とはいえ、後悔せずにはいられなかった。
だが船は錨を上げていなかった。スコセッシ監督を納得させる俳優がなかなか現れず、2年後、窪塚に再びビデオオーディションのチャンスが訪れる。あの時とは一変、キチジローというキャラクターを深く理解し、ときにその人物像から逸脱しながら、ありったけの引き出しを開けてアピール。“ガム事件”で論外のらく印を押されたキャスティング・ディレクターにこう言わしめた。「次はスコセッシ監督に会ってほしい」と。
監督との初対面は昨日のことのように覚えている。「監督はホテルの大広間みたいなところにいた。ドアをノックして入ると、振り返って僕にニッコリと笑いながら“会いたかったよ、君は最高だった”と言ってくれた。レースのカーテンの隙間からは光が降り注いでいましたね」。オーディションは「オーサム、ワンダフル、ビューティフル!」の連発。そしてスコセッシ監督は言う。「撮影地で待っている」。敗者復活の瞬間だった。
自らも復活を実感している。自由奔放なスタイルを変えず、デビュー時からオリジナルな生き方を貫き通してきた。それが通用しているうちは個性といえるが、限度もある。「ぶつかることも少なくなかったし、父親から“仕事がないならコンビニでバイトしろ!”と言われるほど仕事が少ない時期もありました。その頃は自分の温度と世間の温度が合わないジレンマがずっとあった」と打ち明ける。だが遠く険しい道の先に、巨匠からの「君がいて助かった」という賛辞が待っていた。
「最近は周りからも“すごくいい感じだね”と言ってもらえる機会が増えて、自分でも今いい感じと言える。過去にいろいろなことがあったけれど、それらすべてひっくるめて今へと繋がる必要な伏線だったと思える。今回の映画出演を手にしたことで、不遇時代が一発で報われた気がする」。無駄な時間は1秒たりともなかった。胸を張れる。
ハリウッド進出2作目も決定。スコセッシ監督は自作を通して、たとえアウトサイダーになろうとも自分の信念に対して忠実に生きる人間たちの強かさを描いてきた。俳優・窪塚洋介も、信念に対して忠実に生きる人である。(石井隼人)