【イマドキの仕事人】介護福祉芸人メイミ 高齢者と笑タイム

2017年03月20日 10:00

芸能

【イマドキの仕事人】介護福祉芸人メイミ 高齢者と笑タイム
高齢者とハイタッチするメイミ Photo By スポニチ
 福祉施設でネタを披露して回る異色の女性芸人がいる。「介護福祉芸人」を名乗り、高齢者に笑いを届けるメイミ(36)だ。漫才やコントが主流のお笑い芸人とは違い、一緒にレクリエーションをしたり、ひと目で見て分かるような瞬間芸で楽しませている。活動の根底には、福祉の現場で働いた経験から「老い」の葛藤を「笑い」で和らげたいという思いがあった。
 「北の玄関口」として発展した上野に隣接する街、東京都台東区の入谷。2月下旬、メイミは閑静な住宅街にある介護サービス付きの高齢者向け住宅「ライフケア台東」にいた。

 居住者を対象にした演芸イベントには、80〜90代の8人が“観客”として集まった。施設のスタッフに付き添われ、着席。のんびりとした時間が流れ、予定時刻より5分遅れの開演となった。

 メイミは黒のスーツで登場。「脱げ!脱げ!」と掛け声を促して、あっという間にメイド服に着替えてみせた。「昼すぎは眠くなりますからね」と前置きして、一緒に手の運動。先にグー、チョキ、パーのいずれかを出して、それを見て勝つ手を出してもらうことで頭の体操も兼ねている。相手にどんどん参加してもらい、ハグやハイタッチをしながら距離を縮めていくのがメイミ流だ。

 客席に笑顔を向けながら、一人一人の表情を見る。内容は理解できているか、置いていかれている人はいないか。この日は、右手が不自由な女性とハイタッチしようとした時に空振り。「右手があんまり動かないのよ。ごめんね」と言われ「あんまり無理しないでね」と耳元でささやいた。「高齢者とひとくくりにされがちだけど、一人一人個性があって、豊かな人生経験がある。そこを大切にしたいと思っています」。

 高校卒業後、地元福岡から美容の専門学校に進むため上京。知人のお笑いライブを手伝ったことから、人が笑う姿に心を動かされた。02年、21歳で大手芸能事務所「ホリプロ」のオーディションを受け合格。芸名は本名(中嶋恵=めぐみ)のあだ名から。「ピンの女芸人がやるネタは一通り試した」。だが、ステージに立つことができたのは年2回だけという厳しい現実が待っていた。

 そんな時、知人の誘いで複合福祉施設でのお笑いイベントに出演。看護師コント中に「鈴木さーん」と呼ぶと、おじいちゃんが自分が呼ばれたと勘違いして「はい!」と返事。再開しても「鈴木さーん」の部分で同じことの繰り返し。会場は爆笑の渦。「客席との一体感が凄く楽しかった」。自分の中で何かがはじけた。

 05年に事務所を辞め、フリーで高齢者向けの施設を回った。ところが、思うように笑ってもらえない。どうしたら笑ってもらえるのか模索する日々の中、自宅の近所でデイサービスのパート募集を見かけた。「これならお年寄りのことが分かるかも!」と、ホームヘルパーの資格を取ってから応募し、週3日働きだした。

 同じ勤務先で14年まで8年半勤務。介護福祉士の資格も取得した。現場で接する高齢者は想像と違った。肉体的、精神的に老いていくことへの葛藤、家族や友人が死んでいくことへの心細さ。自分が接している時だけでも笑ってほしいと願い、リハビリにじゃんけんの動きを取り入れるなど楽しめる工夫を凝らした。これが「介護福祉芸人」としてのネタにつながった。

 現在は高齢者向けの演芸イベントの企画・開催などを行うNPO法人「笑顔工場」の理事長を務めており、介護福祉芸人としての活動は「社会貢献」という位置づけ。高齢者からファンレターももらうが「達筆すぎて読むのに時間がかかることもある」と苦笑い。全国の福祉施設から依頼を受ける講演やイベントの司会などが収入の柱になっているという。

 メイミの元には不安を抱える福祉施設の従事者から「笑顔で居続ける方法は?」などと相談もよく届く。持論は「相手を笑顔にするためにはまず自分が笑顔でいること」。ストレスケアが大切だといい、自身は毎朝7時に近所の寺で座禅を組むことを日課にしている。

 福祉施設で演芸を見ていた高齢者も従事者もみんなが声を出して笑っていた。老いることは悲観的に見られがちだ。だからこそ、メイミのような存在を時代が必要としているのかもしれない。「私ができるのはおじいちゃん、おばあちゃんに笑顔を届けることぐらい」。そう謙遜したメイミからは白い歯がこぼれた。

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