しんちゃんと四半世紀 矢島晶子の矜持 のど酷使も“あの声”に注ぐ愛情
2017年04月28日 09:00
芸能
しんのすけとは四半世紀の付き合い。「大人の口まねしたり、やることがとっぴょうしなかったり。自分の子供に欲しいですかと言われたら、どうかなあと思いますけど」と笑いつつも「子供ならではの本能や直感をしっかり持っている。そこにあこがれます。小さいときの私は羽目を外すことができなかったので、うらやましいなあと」。もはや人生の相棒ともいえる存在だけに、その口調には愛情がたっぷりとこもっている。
最新作は、野原一家が突然やってきた宇宙人「シリリ」とともに日本縦断の旅に出る物語。しんのすけとシリリは、その育った環境の違いから時には衝突しながらも最後は気持ちが寄り合う。見どころについては「2人のすれ違う場面や、『宇宙も地球も一緒ですな』と話しながら心がつながっていく姿もみてほしいですね」と話す。
声優といえば楽しさやワクワク感を届ける一方で、声を当てる作業はハードだ。例えば、目。手にした台本の文字と離れた位置にある画面とを交互に見ることで「(焦点合わせの)近い遠いをやらなくてはいけないので普通の方より目をかなり酷使しています」と明かす。
さらには瞬発力も求められる。今作もスピーディーな描写や、しんのすけのちょこまかした面白い動きが健在だが、「その細かい動きを見逃さずに、それに合う表現やアドリブを入れないとスクリーンの大画面では、すぐにバレてしまう」と、瞬時の対応の大事さを説明。「時間を割いてチケットを購入して劇場に足を運んでくださる方に映画館ならではの迫力をお伝えする。映画としての意味を壊さないように、今回も表現のメリハリをしっかりつけたいと思って演じていました」
そしてなんといっても、しんのすけの声色を発するパワー。ものまねするときのアドバイスを求められる際には「お酒を飲みすぎちゃった時などの“おえぇ?”の“お”でやると、しんちゃんになるんだよ(笑い)」と伝えているそうだが、実際に試してみると、のどへの負担が大きく、素人では長いせりふなど話せないことが分かる。「ここまで作ってくると、結構疲れてきますよ」。テレビアニメでは週に1回、アフレコをするが、収録後は確実に声が荒れてしまうため、直後は別作品の女の子役のオファーが来ても「多分汚い声だから無理かもしれません」と断らざるをえないという。
「そういう声を作ってしまったので、こればっかりは仕方がないなあと」と穏やかな口調で話しつつ、「セリフとしんちゃんの表情とをつなげるのが私の仕事。台本に書いてあるセリフと絵でしんちゃんになること」相棒への愛情、そして、そんな国民的キャラクターに声という命を注ぎ続けているプロとしての矜持がにじみ出ていた。(中田 智子)
◇矢島 晶子(やじま・あきこ) 5月4日、新潟県柏崎市生まれ。小学5年から短大まで演劇部に所属するなど演劇の道を目指していたが、卒業後は和菓子店に就職。その後退職し、演劇養成所で勉強を重ねた。1989年、「アイドル伝説えり子」の主人公・田村えり子役で声優デビュー。「新機動戦記ガンダムW」のリリーナ役、「犬夜叉」琥珀役など多様なタイプのヒロインや美少年、また動物キャラから、米映画「ホーム・アローン」のケビン役など、海外映画・ドラマの吹き替えでは子役を多く担当している。趣味はインテリアコーディネート、一人旅、絵本読み聞かせ。
▼クレヨンしんちゃん 90年8月に「週刊漫画アクション」で連載が開始した臼井儀人氏の同名漫画が原作。92年4月にテレビ朝日系でアニメ化、93年からは毎年アニメ映画が制作されている。埼玉県春日部市を舞台に、主人公の幼稚園児・野原しんのすけと、その家族を中心に巻き起こる日常を面白おかしく描いている。ドタバタコメディーながら、家族や仲間との絆、その大切さを教えてくれる作品でもある。