秋の夜長に
2017年09月05日 10:00
芸能
連盟発行とあって、公式記録集の趣だ。前半は公式戦29連勝中のトリビア的データが採録されている。思わずうなってしまうのは対局中、藤井が注文した食事がすべて明記されていること。渦中の人が渦中の対局で何を食べていたか、簡潔にまとめられている。これはこれで貴重な資料だ。ちなみにプロ初戦(2016年12月24日=対加藤一二三・九段)の昼食は「味噌煮込みうどん」だった!
メインはAbema TVのヒット企画「炎の七番勝負」の全棋譜と、藤井本人による自戦記。無言の対局中に何を考えていたのかが手に取るように分かる。対戦相手の談話も過不足なく掲載されており、読み応え十分の内容だ。公式戦29連勝からは前述の加藤戦を含め3局の棋譜もある。実際に駒を並べてみたい本格ファンにお勧めだ。
もう一冊は「藤井聡太 名人をこす少年」(津江章二著・日本文芸社=税別1300円)。なぜ「越す」や「超す」ではなく「こす」とひらがななのか。その答えは見開きグラビアですぐ明らかになる。
著者の津江氏は共同通信の将棋担当記者。元々は運動部に在籍し、プロ野球やボクシングの取材経験が豊富だ。それゆえか、藤井の快進撃を過去のスポーツ名選手と比較して記述しているのが印象的。29連勝中、徐々に盛り上がっていく様がドラマチックに描かれており、津江氏とともに取材活動にいそしんでいた筆者にとっては共感部分が多い。
カバーを外して裏面を見ると、おお、藤井の写真が。折り目があるのが残念だけど、ちょっとしたポスターだ。見返しの部分は駒の動かし方や将棋の基本ルールなどが丁寧に記載されている。全くの初心者でも楽しめる工夫がうれしい。
2冊ともB6判で、ページ数(192)も全く同じ。紙質の差異で厚みが若干違うものの、手に持った感覚はほぼ同じだ。値段にしても80円違い。タイトルも混同しやすいから、間違えて購入するリスクがあるかも…。
いや、藤井ファンなら両方買いましょうよ、この際。 (専門委員)
◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。