俳優と短大講師“二足のわらじ” 志賀廣太郎 漂えど沈まず 目指すは「自由」の境地
2017年10月15日 09:30
芸能
リアルを持ち込んだ芝居が、実在するかのような人間味ある人物を生み出す。13年に大ヒットしたTBS「半沢直樹」で演じた町工場の社長は1話だけの出演にもかかわらず話題になり、テレビ東京「三匹のおっさん」はシリーズ化されるなど大活躍。街で声を掛けられることも増えた。
「陸王」で演じるのは、会社の存続を懸けてランニングシューズ開発に取り組む老舗足袋業者で4代目社長(役所広司)を支える専務。先代社長時代から働く大番頭の役どころで「ニコリともしない役。そういう人間だと思ってやっています」。
一方、映画「銀魂」では“頭髪”をいじられるラーメン屋台の店主を演じるなどコミカルな役でも魅了。「自分で気がつかないところを見てくださってる方がいる。それがありがたいし楽しいです」
非常勤講師として週1回、1コマ90分の授業を受け持つ。学生に芝居を創作させ、セリフを作り、演出し、演じるという演劇の3つの側面を考えるよう指導している。講師の仕事の面白さは「年代によって若い人も変わっていくから、若い人がどういうことを考えて、どういう芝居をしているのかに触発されることもあります」と語る。「卒業後に全員と交流があるわけじゃないけど、演劇を離れても活動的にいろんなことをやっている姿を見ると凄くうれしいです」と顔がほころんだ。
一度結婚歴があるが、今は独身。大の酒好きで、居酒屋やバーに一人でふらりと飲みに行くのが楽しみだ。昼下がりのレストランで行ったインタビュー中も、話しながらハイボールが進む。気に入った店は頭の中にインプットされており「仕事が早く終われば、その近くで“あの店があったな”と寄って帰る。何でも飲むけど日本酒が一番多いかな」。温泉も好きで、オフの日は箱根まで足を延ばすこともあるという。
来年古希を迎えるが、9月に朗読劇で晩年の葛飾北斎を演じて刺激を受けた。「北斎は70、80歳になってから“動物の骨格の何たるかが分かった。まだまだだ”とやっていく。最晩年に描いた“雪中虎図”を見ると、自由なんですよね。いい意味で遊ぶというその感覚、自由さを求めたいと思っています」
好きな言葉は「漂えど沈まず」。「パリ市庁舎に飾られている額に、ラテン語でこの言葉があるんです。歴史がいかに変わって翻弄(ほんろう)されようとも、決して沈むことのないパリを象徴している。いくら翻弄されても自分というものがありさえすればいい。自由を目指したいですね」
力みなく飄々(ひょうひょう)とたゆたうようでいて強い存在感を放つ俳優。好きな言葉をリアルに体現している。
≪教え子に南果歩≫教え子には女優の南果歩(53)がいる。「お芝居を見に行って、果歩さんや同期たちと何人かで飲んだ時、“コータさん、先生だと思っていたのに、いつの間に同業者になったの”と言われました」と笑顔。学生には「先生」ではなく「志賀さん」と呼ぶように言っている。「現場で出くわして、“先生”なんて言われたら嫌ですよ」と苦笑いした。
◆志賀 廣太郎(しが・こうたろう)1948年(昭23)8月31日、兵庫県生まれの69歳。78年から母校で非常勤講師を務め、90年に「青年団」に入団。CMへの出演をきっかけに映像作品に進出し、01年のフジテレビ「世にも奇妙な物語」では木村拓哉の父親役。05年に人気漫画を実写化したDVD「THE3名様」のパフェおやじ役で注目された。主な出演作はドラマ「マッサン」「三匹のおっさん」、映画「あやしい彼女」など。電車内で女子高生に壁ドンする日清カップヌードルのCMも話題になった。1メートル65。