人生いろいろ、映画もいろいろ、選考もいろいろだ
2018年01月20日 10:30
芸能
第91回キネマ旬報ベスト・テンは1位が石井監督の「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」で、2位が大林監督の「花筐/HANAGATAMI」、3位が岸監督の「あゝ、荒野」だった。伝統ある毎日映コンとキネ旬は例年、比較的似る傾向がある。
独自路線を行くのが日本アカデミー賞だ。各部門の優秀賞が発表されたが、作品賞は月川翔監督(35)の「君の膵臓をたべたい」(東宝)、是枝裕和監督(55)の「三度目の殺人」(東宝、ギャガ)、原田真人監督(68)の「関ヶ原」(東宝。アスミック・エース)、廣木隆一監督(64)の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(KADOKAWA、松竹)、篠原哲雄監督(45)の「花戦さ」(東映)の5本。この中から最優秀作品が選ばれるが、毎度ながら独立系プロダクションの映画には狭き門となった。毎日映コンやキネ旬とは“逆転現象”が起こっている。
アカデミー会員の投票。むろん尊重するが、「花筐/HANAGATAMI」も「あゝ、荒野」も「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」も入らなかったのは正直言って驚いた。山田洋次監督(86)の「家族はつらいよ2」が選に漏れたのも意外に思えた。
かろうじて個人賞に「あゝ、荒野」の菅田将暉(24)と「彼女がその名を知らない鳥たち」(クロックワークス)の蒼井優(32)が候補になっていて、「メジャー作品だけを対象にしているわけではない」とアピールしている?が、独立系作品の出演者たちにはやはり総じて冷たい。
投票権を持つ会員の何人かと話をすると、時に腰を抜かしそうになる。「忙しさにかまけて、大手以外の作品はほとんど見られていない」という答えが返ってきた。「排除の論理」が働いているとは思わないが、時間をつくって独立系の作品も見ていくと、ノミネートの顔触れも変わっていくかもしれない。素晴らしい演技を披露している俳優はたくさんいるし、みすみす見逃すのはもったいない。
自らを「映画作家」と称する大林監督は戦勝国が製造した35ミリカメラを使って映画を撮っていた大手映画会社に違和感を持っていたという。そのためホームムービー用の日本製8ミリや16ミリを使って撮り始めたから「映画監督」とは名乗らなかったのだと明かす。原点は自主映画。そんな大林監督が毎日映コンの大賞を射止めた。「こういう時代が来たことが素直にうれしい」の言葉には重みがある。(編集委員)
◆佐藤 雅昭(さとう・まさあき)北海道生まれ。1983年スポニチ入社。長く映画を担当。