チャーチル特殊メークでオスカー候補、辻一弘氏 完璧ぶりに「ハードル高かった」
2018年03月02日 09:30
芸能
辻氏は京都市生まれ。スター・ウォーズを見て特殊メークに興味を持った。17歳のころ、毎週通う洋書店で開いた映画雑誌。米メークアーティスト、故ディック・スミスさんが俳優をリンカーンに仕上げた特殊メークを見て「これだ!」と将来を決めた。雑誌に書かれたスミス氏の連絡先に手紙を送り、文通を開始。「米国にもいいメークの学校はないから自分で勉強しなさい」と助言を受け、自身の顔を練習台に技術を磨いた。スミスさんがスーパーバイザーを務めた黒沢清監督のホラー映画「スウィートホーム」(89年)にスタッフで招かれ上京。高校卒業直後のことだった。
黒澤明監督「八月の狂詩曲」(91年)などを経て、96年に渡米。オールドマンとは、ある映画で特殊メークを担当する予定だったが彼が降板してかなわず。後に辻氏の彫刻に感銘を受けたオールドマンは、辻氏のドキュメンタリー番組のナレーションを担当した。本作でも、自ら辻氏に「君がメークを担当してくれなきゃ役をやらない」とメール。熱烈オファーに、映画界を12年に去り芸術家となった辻氏も断れなかった。
とはいえ、オールドマンとチャーチルは「似ても似つかず難題だった」と振り返る。過去に多く手掛けたコメディー映画と違い、シリアスな内容。「少しでも違和感があると観客は物語に入り込めなくなる。ハードルは高かった」。約5カ月かけて仕上げた力作を本編で確認してほしい。オールドマンの素顔を忘れるほど、完璧な出来栄えだ。
辻氏は、特殊メークの重要性を深く理解するオールドマンに敬意を表する。「メーク中は数時間座りっぱなし。多くの役者は嫌がり、ミーティングを始めたり携帯で電話したりするが、じっと動かない。メークは早く仕上がるし、質も上がる」。くせ者や悪人を演じることが多いオールドマンについて、辻氏は「大物ぶらず気さくで本当にいい人です」と、素敵な素顔を明かしていた。
◆辻 一弘(つじ・かずひろ)1969年(昭44)5月25日生まれ、京都市出身の48歳。日本では「ミンボーの女」(92年)、米国で「PLANET OF THE APES/猿の惑星」(01年)「グリンチ」(00年)などのメークを担当。