【夢中論】ロバート秋山 千の顔を持つ男 ルーツは少年時代の遊び「全身全霊をかけてた」
2018年03月06日 10:00
芸能
これは、持ちネタの一つ「小学生版画クラブ」のメーク。メンバーの山本博(39)が秋山のもとに版画を習いに来るが、実態は“小学生が彫りそうな版画を体で表現する”クラブという設定だ。
「僕のネタ、素材は全部、小学生から高校までの“遊び”なんです。遊びを考えるのに夢中で、全身全霊をかけてた。完全に人生のベースになっている」
九州の玄関口、北九州市門司区で育った。「家が岸壁と採石場に囲まれてましてね。周囲は絶壁と、外国籍のコンテナばかり。玄関を出ると5秒で動物の検疫所がある」。秋山少年はこの危険な環境で、共にロバートで活動する馬場裕之(38)ら幼なじみ3人と日々遊んで暮らした。
「船を岸に結わえ付けるロープを渡ったり、手旗信号を適当に送ったり」。たまに信号が通じ、船が動きあわてて逃げたことも。パナマやミャンマー、中国の船員とも遊んだ。「適当な言葉が通じるものなんです。中学のとき、ミャンマーの船に誘われて“持ち出すと検疫に引っかかるから、ここで”と、たくさん食べ物をごちそうになったことも」。一日に何度も発破がある採石場では、西部劇の米国人になりきる「グランドキャニオンゲーム」に興じた。
学校でも個性全開。掃除の時間に流れるクラシック音楽に振りを付けたり、架空のCMソングを歌った体験は現在のネタに結びついている。「クラスの中心ではなかったし全然モテなかった」と話すが「誰か一人でいいから“面白い”と言ってもらえるのが気持ちよかった」。ゼロから楽しみを創造した。
ゲームやカードなど既存の娯楽には目を向けなかったのか。「家の中で遊ぶのが苦手で…。必要以上に空気を読んでしまう。気心知れたやつらと外で遊ぶしか、ストレスを感じない方法がなかった」
友人宅で出されたおやつを「何個も食べちゃっていいのか」と考える。夕飯の支度が始まると「帰った方がいいかな」とまた考える。「状況を一歩引いて見る感じは凄くありました」と振り返る。
他人のささいなことも気になる。「あいつんちのおばさんのあの言い方が…とか、何も悪くないのにひっかかる。見なくていいとこまで見る子供でした」
大人気の「クリエイターズ・ファイル」はこうした独創性と客観性から生まれた。顔と体形はそのままに、メークやカツラなどを駆使し、天才子役「上杉みち」や、明治時代の偉人「田村蔵之松」まで、本人かのように変身。その人物がいかにも言いそうだが少しズレたセリフは、秋山ならではのさじ加減だ。
まず1〜2週間かけ外見を固める。カツラはイメージに合わないことも多く、綿密にオーダーする。いざ本番のインタビューは完全アドリブ。感覚を熟知するスタッフと、あうんの呼吸で進行する。しかし秋山の発言はそんなスタッフの想像さえしばしば上回る。設定は“真面目な”インタビュー。笑い声が入らないよう周囲は必死でこらえる。そこにピリピリ感は一切ない。
「感覚は仕事でなく遊び。子供の頃やりたくてもできなかった感じ。“こんな衣装を”と言ったらスゲーのが来るし何もかも豪華。これは極上の遊びですよ」。かつて幼なじみと内輪で楽しんだ濃密な感覚が、今や日本中を楽しませている。
「遊び感覚が仕事になって、いいのかな?と思う」と謙遜しつつ「世の中に仕事はいっぱいある。現状に苦しむ人も、声でも優しさでも何でもいい。評価されるひとつのことを伸ばせば、何かに必ずつながると思いますね。僕はそれがお笑いだっただけ」とエールを送る。そう、夢中に勝る才能はないのだ。
≪池袋で展覧会≫「クリエイターズ・ファイル」はフリーマガジン「honto+」で15年から連載。ユーチューブに公開した動画が話題を呼び、昨年行われた展覧会の動員は東京会場だけで約5万人、全国4都市で関連イベントを含め計22万人を超えた。来月2日まで、東京・池袋のパルコミュージアムでパワーアップした展覧会を開催中。1日には秋山が扮したキャラ20組のインタビューと、その映像を収録したDVDのセット第2弾が発売されるなど、勢いはとどまるところを知らない。
◆秋山 竜次(あきやま・りゅうじ)1978年(昭53)8月15日生まれ、福岡県出身の39歳。高校卒業後、吉本総合芸能学院(NSC)東京校に馬場と入学し、98年に同期の山本を加えロバートを結成。01年スタートのフジテレビ「はねるのトびら」で人気に。ロバートとしては11年「キングオブコント」優勝。個人では昨年「GQ MEN OF THE YEAR」のベスト・コメディアン賞を受賞。夫人と1女。