カンヌは危険も「万引き家族」パルムドール 家族を描き続けた是枝裕和監督“10年の考え”結実
2018年05月20日 06:00
芸能
10年くらい自分なりに考えてきたこと――。この10年の間、是枝監督は母親を亡くし、自身は父親になった。フィルモグラフィーで言えば、長男の命日に久しぶりに実家に集まった家族の1日を描いた2008年のホームドラマ「歩いても 歩いても」から、子供を取り違えられた2組の家族を描いた13年の「そして父になる」へ。そして15年の「海街diary」は四姉妹を通して、16年の「海よりもまだ深く」は団地を舞台に家族の絆を描いた。
「そして父になる」や「海街diary」のテーマは「家族のつながりは血か?時間か?」。そこから今作は、さらに“進化”。親の死亡を隠し、その家族が年金を不正に受給していた年金詐欺事件に触れ、犯罪でしかつながれなかった家族を着想した。
母親が死に自分が誰の子でもない、自分に子供ができたが父親はいつ父親になるのか、母親は子供を産めば必ず母性が芽生えるのか――。自身の家族の変化も積み重なり、集大成とも言える今作につながった。
4月下旬、是枝監督にカンヌ映画祭への気持ちを尋ねると「(賞を)期待していただいても構いませんが、オリンピックと違って、もう競技は終わっている(作品は出来上がっている)ものですから。意気込んでも、どうしようもないですからね」と平常心を強調。それでも「カンヌには30代、40代、50代と、ずっと呼んでいただいているので、60代でも、と思っています。それぞれに思い出がありますし、うまくプレゼンテーションできた時も、できなかった時もありますし。まあ、大変な映画祭です」。7回目の参加となるカンヌ映画祭常連の是枝監督をして「大変」という言葉が飛び出した。
「カンヌは、監督がふらっと1人で作品を持っていく映画祭じゃないですよね。特にコンペは組織戦。配給会社とセールスエージェントと現地のパブリシスト、みんなで戦う感覚なんです」。殺人事件の加害者遺族を描き、脚本には相手の台詞が書き込まれていないというドキュメンタリー的な手法を採った01年の「DISTANCE」でカンヌ映画祭初参加。「非常にインディペンデントで、実験的な作品。公式上映後もほとんど取材が入らず、みんな暇だったので、海辺で相撲を取っていました」と苦笑いして振り返った。
「これだけ行っていると、今回そんなに取材が入らないという状況はたぶんないと思うんですが、それでも、カンヌでワールドプレミア(その作品の世界最初の上映)をするというのは、成功した時と失敗した時の落差が一番激しい。その作品に対する風向きが、逆風になった時の凄まじさたるや…。他の監督の作品を見ていても、背筋が凍る思いがします」と影響力の大きさを実感。
「だから、カンヌでワールドプレミアをするのは危険だし、ある種、ギャンブル。自分の作品の大きさや小ささ、広さや狭さを考えた時、これは果たしてカンヌのコンペに耐えうるのかどうかというのは、僕が決めることじゃなく映画祭が決めることとはいえ、何回参加しても、いつも悩むというか、自分の作品は大丈夫かなと思います。今回は小さな話なので、どういう届き方をするのか、ちょっと分からないですね」と渡仏前の率直な心境を明かしていた。
パルムドールに輝き、登壇した第一声は「ちょっと、さすがに足が震えています」。最高の“追い風”に、世界の数々の映画祭に参加してきた百戦錬磨の是枝監督も打ち震えた。