これぞ活動写真の原点!この勢いは誰にも止められない
2018年08月20日 10:45
芸能
冒頭から37分に及ぶワンシーンワンカットの“ゾンビ映画”からラストまで一気に見せる。息もつかせぬ展開とテンポの良さは圧巻だ。何より、ほとんど無名の出演者たちの体を張った汗と涙の熱演には筆者も拍手を惜しまない。サイレント時代のチャプリンやキートン、出てきた頃のジャッキー・チェンの作品を思わせて、活動写真の原点を見せてもらった感じがする。
ゆうばり始めカナダやドイツのファンタスティック映画祭など国内外の映画祭での評判も大変なものだったそうだから“化ける”要素はあった。2館で始まった興行はSNSの拡散や口ロミ効果で徐々に上映館を増やし、累計190館に拡大。都内の劇場は今でも毎回ほぼほぼ満員状態が続いている。
約300万円で作られた作品は既に興行収入4億円を突破。これからさらに全国に広がっていく予定で、大都市での動員が落ち着く頃に地方で公開が始まるという、まさにゾンビのような“よみがえり”戦略が数字アップにつながりそうだ。
新聞、テレビ、雑誌と既存の媒体も頻繁に取り上げて社会現象化も一気に進んだ。作品のテイストは全く違うが、2016年11月12日に63館でスタートし、累計400館まで拡大したアニメーション映画「この世界の片隅に」(監督片渕須直)をほうふつとさせる。同作品はなお公開中で今年5月4日の時点で209万人を動員、興行収入も27億円を突破。12月には新しい場面を加えた別バージョン「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の公開も決まっている。
筆者は1989年11月11日に公開された阪本順治監督(59)のデビュー作「どついたるねん」を思い出した。製作の荒戸源次郎氏が原宿にテントを設営して上映。評判が口コミで広がってロングランを実現させ、大ヒット。第32回ブルーリボン賞作品賞までさらってしまった。ピンク映画だったかアダルトビデオだったかは忘れたが、「つついたるねん」という作品まで出てきて苦笑したことを覚えている。
「カメラを止めるな!」の勢いはまだまだ止まらない。蘇り続ける“ゾンビ作品”は年末から年明けにかけての映画賞でも脚光を浴びそうだ。
◆佐藤 雅昭(さとう・まさあき)北海道生まれ。1983年スポニチ入社。長く映画を担当。