雨男参上

2018年08月23日 08:30

芸能

雨男参上
外は豪雨。会津農林の集合写真はビニールハウスの室内練習場でパチリ Photo By スポニチ
 【我満晴朗のこう見えても新人類】100回目の記念大会が甲子園で盛り上がっていた最中、福島県の会津農林高校野球部を縁あって取材した。
 水田に隣接したグラウンドで会津も猛暑でしたかと江川篤監督に尋ねると「暑いのは暑かったんですが、この夏は雨がほとんど降らなくて…」と複雑な表情だ。え?雨が降らないなら練習も予定通りにできるし、かえって好都合ですよね?野球部的には。

 はっと気がついて、いただいた名刺に視線を落とす。肩書には「野球部監督」の他に「農業園芸科」「人と種をつなぐ会津伝統野菜専攻班担当」といった文言が列挙されている。そう、ここは農林高校。大自然を相手に農作物を育てるスキルを高校生に授ける教育の場だ。雨が降らない、は決して喜ばしい現象ではない。

 天候だけではない。他の高校と違い、夏休み中も実習授業がある。そりゃそうだ。夏季の農林業にバケーションなどない。「実は部員も実習で練習を休まなければならないんです。全員そろう日は、なかなかないんですよ」。そういえば甲子園出場校で農業系はすっかりマイナーになってしまった。日田林工(大分)に西条農(広島)、新発田農(新潟)といったかつての常連校の名が懐かしく響く。

 とは言っても、決してネガティブなだけではない。秋になると実習用の水田から新米を収穫。この「会農米」が野球部にも差し入れされ、選手のエネルギー源となる。化学肥料の使用を極力抑えたオリジナルのオーガニック米だ。さらには朝どりの新鮮な鶏卵も手に入るという。都市部の住人からするとかなりぜいたくな食環境だ。

 よって野球部のモットーは「食べて食べて体を大きくせよ!」。今夏からエースを張っている本田慎弥投手(2年)は1メートル88、78キロの堂々たる体格だ。昨冬の間に10キロほど増量し、現在もサイズアップ中とか。このあたりは農業系のアドバンテージと言っていいだろう。

 さはさりながら、今夏の小雨はなあ…と上空を見上げたら、なんだか鉛色の雨雲が層を重ねつつある。5分ほど経過すると雷鳴が響き渡り、滝のように雨が降ってきたではないか。

 グラウンドはあっという間にビチャビチャに。はい、練習終了。選手の表情が心なしか明るいのは早く帰れるからではなく、育てている農作物のことを考えているためか。筆者もそそくさと取材を終え、ずぶぬれになりながら退散した。

 そんなこんなで金足農(秋田)の快進撃にはあらためて驚嘆の思いを抱いている。(専門委員)
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