「変幻自在」カメレオン俳優 中村倫也の「唯一無二」進化論
2019年02月05日 10:00
芸能
「獲物が来るのを待ってるんですよ。口をパクパクさせて、たまにあくびもする。水槽を指でなぞると獲物だと思って追っかけてきたり、面白いんですよ、こいつは」
親しみを込めて「こいつ」と呼ぶ。飼育で大変なのは水替え。飼育水のバクテリア量など、環境を急変させないため、替えるのは半分。月1回、20リットルのポリタンク4つとバケツ2つを使って作業する。
「つぎ足しつぎ足しで菌をちゃんと保つ。ぬか床みたいなものです。慣れれば1時間で終わりますよ」
元々、深海魚が大好き。ただ、水圧の問題などで飼えないため「同じような変な生き物はいないかな」と探すうちに行き当たった。ポリは「多い」、プテルスは「ひれ」を意味し、10枚ほどの硬い背びれが特徴。「古代魚の生き残り」と言われ、エラ呼吸だけでなく肺呼吸もする。
「訳の分からないところが好き。1億5000万年前から進化していないと言われているのに、現存しちゃっているのが面白い」
母親が動物や昆虫が好きで、幼少期からよく飼っていた。小学生の時、自宅リビングにハムスターの飼育ケージがたくさん並び置かれていたことから、友達に「ハムスター団地」と呼ばれていた。今もハムスターを飼い、ネット上でウサギの動画を深夜まで見て癒やされている。
「動物って生きるための理屈でしか動いていないじゃないですか。余計なことを考えていない。そういうのを見ると、余計なことしか考えていない人間としては心が洗われるんですよ」
動物にも昆虫にも人間にも同じ目線を向ける。「みんな同じ土俵という感覚だから、人とかみ合わないことがあるんです」と笑う。
くしくも自身は「カメレオン俳優」と例えられる。DV夫やプロ棋士、貴婦人など、役柄ごとに全く違う表情を見せるからだ。異性まで器用に演じ分けられるのは、その独特な“目線”が大きく影響している。
「僕は自分の役を美化も卑下もしない。どんな役でも“単なる一つの生き物”と同じ目線で見ている。いろんなことに対して等間隔なんですよね。人とも動物とも役柄とも」
どんな役に対しても心構えが同じ。そのフラットな目線こそ、中村の最大の武器だ。05年にデビューし、大きな転機を迎えたのが昨年。“ゆるふわ”なモテキャラを演じた「半分、青い。」だ。
「朝ドラって凄いですよね。知らないおじいさんに“君!出てるね、朝に”って声を掛けられました」
「中村倫也」がネット検索されることが増え、昨年の「ヤフー検索大賞」の俳優部門を受賞。知名度が一気に増した。朝ドラ以前も出演作は多かったため多忙ぶりは変わらないが、役者としての意識は大きく変わった。
「海には潮の流れがあるんだと気づきました。これまではただ船をこいできたけど、これからは潮目を読んで風を受けて帆船にならないといけない」
自分がどう見られ、何を期待されているのか。世の求めに応じて演じていく、ワンステップ“進化”した役者になろうとしている。「カメレオン俳優はどう進化する?」と聞くと「カモノハシになりたいですね」と、再び柔和な表情に戻って動物の話を熱っぽく語りだした。
「童顔な見てくれだけど、オスは足のツメに猛毒がある。ハイスペックな能力も持っていて凄いんですよ。今年はカモノハシ俳優って言ってもらえるように頑張りたい」
毒を持つだけでなく、ほ乳類なのに唯一、卵を産むのがカモノハシだ。何色にでも変わる「変幻自在」から「唯一無二」の俳優へ。どう進化していくか、楽しみだ。
《深キョンと「収まりよく、はみ出しつつ》 中村は深田恭子(36)主演のTBSドラマ「初めて恋をした日に読む話」(火曜後10・00)に出演中。先月22日の第2話から本格的に登場すると「かっこよすぎ」と話題になった。東大受験に失敗した主人公の予備校講師の女性が、受け持った男子生徒の東大合格を目指すストーリー。見どころは恋愛模様で、中村が演じるのは、主人公が人生で唯一告白されたことがある高校の同級生。男子生徒の担任として主人公と偶然再会する。中村は役作りのために久々に茶髪に染め「収まりよく、かつ、はみ出しつつ演じたい」と意気込んだ。
◆中村 倫也(なかむら・ともや)1986年(昭61)12月24日生まれ、東京都出身の32歳。05年、映画「七人の弔」でデビュー。舞台「ヴェニスの商人」(13年)やNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(14年)などに出演。昨年8月に写真&インタビュー集「童詩」を発売。1メートル70。血液型A。