獅童×Rock「批判も覚悟で自分のスタイル貫き」歌舞伎界に新風吹き込む

2019年04月23日 09:30

芸能

獅童×Rock「批判も覚悟で自分のスタイル貫き」歌舞伎界に新風吹き込む
3月13日、音楽イベント「アクターズナイト」で「高樹町ミサイルズ」のボーカルとして歌唱する中村獅童(C)渡邉俊夫 Photo By 提供写真
 【夢中論】歌舞伎界の“異端児”とも評される中村獅童(46)。役者としての活動の一方、着物からジャケットに着替えるとロックンローラーの顔になる。これまで古典演目はもちろん、時代を切り開く新作歌舞伎にも挑戦し続けてきた。常に前進し続ける勇気。そこには獅童なりの“ロック魂”という哲学があった。 (吉澤 塁)
 黒いサングラスをかけ、頭にはバンダナ。ジーパンとジャケットに身を包み、声を張り上げながらステージを暴れ回る。「アナーキー」のボーカル仲野茂(59)らと結成したバンド「高樹町ミサイルズ」のステージだ。メンバーたちが奏でる魂の叫びに合わせて観客たちは頭を振り、ライブハウスの温度はぐんぐんと上昇する。

 音楽を始めたのは世の中がバンドブームに沸く高校1年生の時だった。当初のパートはベースだったが、すぐにボーカルを担当。「目立ちたがり屋だったからね。横取りしちゃいました」とニヤリと笑う。80年代のLAメタルや、大好きだというローリング・ストーンズのコピーバンドから始まった。

 バンド活動は高校、大学そして現在まで続くライフワークの一つだ。現在活動している「高樹町ミサイルズ」としては、3月に亡くなった内田裕也さんが主催するカウントダウンフェス「ニューイヤーズ・ワールド・ロック・フェスティバル」に3年連続で参加。また俳優の大森南朋(47)、浅野忠信(45)、田口トモロヲ(61)らがそれぞれ結成するバンドを集めた「アクターズナイト」も企画。17年には全国を巡る初のライブハウスツアーも行った。
 「役者というのは台本があって決められた約束の中で役を演じるわけですよね。僕の中で音楽は何の決めごともしばりも脚本もなくて自由にやれるもの。そこに精神のバランスがありますね」と音楽活動の魅力を明かす。

 音楽という表現方法にこだわるのには理由があった。「10代の頃は歌舞伎で自分を出せなくて“獅童の声を聞いたことがない”と言われるような凄くおとなしい思春期だったんです」。歌舞伎界に早くなじまなければいけないという焦りや、なじめないという現実。それでも歌舞伎俳優らしくしなければならないという戸惑いがあったという。「そういった抑えつけられた気持ちをロックというもので発散していたんです」とバンド活動に明け暮れていた当時を回想する。

 父の小川三喜雄さん(初代中村獅童)は、獅童が幼少期の頃に歌舞伎役者を廃業した。その後は母子二人三脚で歌舞伎役者としてのキャリアを歩み、時にはなかなか役がつかない日々を送ることも多かった。そんな時に獅童を奮い立たせたのが、故中村勘三郎さんとロックの存在だった。

 「ロックで自分を解放していた時、そういうことを耳にした勘三郎兄さんから“歌舞伎もロックと同じだから自分をもっと出しなさい”とおっしゃっていただきました。それから気持ちが楽になりましたね」。そして勘三郎さんの舞台で抜てきされたのが96年の「狐狸狐狸ばなし」の「おそめ(牛娘)」という“超三枚目”役だった。「会社の人が“あのおとなしい獅童ちゃんが”と椅子から転げ落ちるほど笑ってくださりました。初めて自分を出せた役でした」と述懐する。

 「歌舞伎とロックは同じ」。勘三郎さんからもらったその金言を「時代を切り開くスピリット」と受け止める。その言葉通り、絵本を原作とした歌舞伎公演「あらしのよるに」、バーチャルアイドルの初音ミクとコラボした「超歌舞伎」など、これまでさまざまな歌舞伎の可能性を切り開いてきた。

 そして新元号となる来月には、兼ねてからの念願だった「オフシアター歌舞伎」の公演を控えている。歌舞伎界屈指の“キケン”な演目とされる「女殺油地獄」に取り組む。放蕩(ほうとう)息子が金のため女性を殺すという古典演目で、それを倉庫、ライブハウスで上演する。「歌舞伎の持つアンダーグラウンドな部分を前面に出していきたい」と思いを込めて稽古に励んでいる。

 「批判もされるだろうけど負けずに自分のスタイルを貫くこと。それがロックの精神。ビートルズも当初は“あんな音楽は教育に悪い”と言われていたのに、今では教科書に載っていますからね」。まるで転がる石のように…。これからも常に前進し歌舞伎界に新たな風を吹かせ続ける。

 ≪来月上演オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」≫来月上演するオフシアター歌舞伎「女殺油地獄」について「今の人たちが見ても“これってあるよね”というリアリティーを演出したい」と力を込める。舞台を360度取り囲むように客席を配置し、プロジェクションマッピングなど最新技術も取り入れる。だが芝居そのものはあくまで古典。「これはデジタルと古典の融合ではありません。アナログな芝居を、現代の我々が目撃しているという構造です」と説明する。
 5月11~17日に東京・天王洲の寺田倉庫で、同22~29日に東京・歌舞伎町の新宿FACEで公演をそれぞれ行う。

 ◆中村 獅童(なかむら・しどう、本名小川幹弘=おがわ・みきひろ)1972年(昭47)9月14日生まれ、東京都出身の46歳。81年に8歳で初舞台を踏み、二代目中村獅童を襲名。02年に「ピンポン」に出演し日本アカデミー賞などさまざまな賞で新人賞を獲得。05年に女優竹内結子(37)と結婚し08年に離婚。15年に元読者モデルの沙織さんと再婚した。現在はNHK大河ドラマ「いだてん」に出演中。

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