大河「麒麟がくる」の魅力を強める尾美としのりの「熟演」
2020年04月11日 10:00
芸能
美濃に戦の危機が迫る中、頼芸のもとに高政と光秀が将軍家への和議のとりなしを頼みに来るシーン。頼芸が「何かとカネもかかるぞ。金5、6枚ではすむまいの」と話す時の陰険な表情や、高政の目を見つめ「(道三を)殺せるか?」と尋ねる時の厳しい横顔に凄みを感じた。そして、光秀から「(必要な金は)10枚!」と要求され、「10枚!?」とぼうぜんとする姿は笑えた。
演技が豊かで、硬軟自在。決して過剰にならず、ちょうど良い具合に収まっている。これは、役者として長年経験を積んできた上での熟演と言うべきものだ。
尾美と言えば、個人的には、時代劇「鬼平犯科帳」シリーズの同心・木村忠吾役が印象深い。忠吾は色白でぽっちゃりしていて頼りないキャラクターだったが、尾美はそれに適した軽妙な芝居で物語を盛り上げていた。
あの軽薄な忠吾が、なぜ、凄みのある頼芸になったのか。「麒麟がくる」の制作統括の落合将チーフ・プロデューサーは尾美の起用理由を「道三と共闘したり敵対したりしながら、のらりくらりと政治力を発揮する難しい役どころを、尾美さんならば、軽やかに演じていただけると思った。決して武張(ぶば)ってはいないキャラクターで凄みを出せるのは尾美さんならでは」と説明する。
尾美の大河出演は2017年の「おんな城主 直虎」以来、3年ぶりで計5作目。落合氏は「大河に何本も出ていて、そのたびに役どころを七変化してくる演技力には脱帽。(今作も)期待に違わず、強さと弱さを併せ持つ複雑さを見事に出していただけたかと思う」と手応えを強調する。
豪華な助演陣の個性豊かな演技を見ることは、大河の楽しみの一つ。12日の放送でも、頼芸の登場シーンが大きな見どころになっている。
その熟演が「麒麟がくる」の魅力をますます強めていく。
◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在はNHKなど放送局を担当。