没後1年連載「ショーケンの遺産」(3)ドラマ「前略おふくろ様」で萩原健一は脱皮した
2020年04月16日 10:00
芸能
![没後1年連載「ショーケンの遺産」(3)ドラマ「前略おふくろ様」で萩原健一は脱皮した](/entertainment/news/2020/04/16/jpeg/20200415s00041000248000p_view.jpg)
制作に当たり、倉本氏が萩原さんに出した条件は2つ。ひとつは、主人公が板前であるため、髪を短く切ること。もうひとつは、アドリブを入れず、脚本通りに演じることだった。長い髪は当時の萩原さんのトレードマークだったし、アドリブは「傷だらけの天使」を面白くした要因だったが、役者としての脱皮を目指す萩原さんは2つとも了承した。
主人公の板前は純朴で無口。「太陽にほえろ」「傷だらけの天使」で形作られた派手なイメージを払拭(ふっしょく)するキャラクターだった。
一方でドラマには萩原さんの日ごろの動向が反映されていた。
「倉本さんは、おれが実体験の話をすると、すごく喜んでた。例えば、おれが板前役の参考に共演者と料亭や和食店に行った時の話をすると、それが脚本に反映されたりしたんだ。あの頃はよく出演者同士のパーティーも開かれていて、おれが行かなかったりすると、脚本に『せっかくのパーティーなのに、あまり客が来ない』なんて話が出てきた。倉本さんは出演者のキャラクターをうまく引き出そうとして、みんなの話を聞いてたんだろうな」と萩原さんは明かした。
個性派俳優の川谷拓三さんの出演を倉本氏に勧めたのも萩原さんだった。当時、川谷さんはまだ全国的に有名ではなかったが、萩原さんは深作欣二監督の映画「県警対組織暴力」の川谷さんの出演場面を見てほれ込み、倉本氏に「あの映画の川谷さんを見てください」と話していた。
出演者は梅宮辰夫さん、北林谷栄さん、丘みつ子、桃井かおり、坂口良子さん、小松政夫ら多彩な顔ぶれ。主人公の板前が周囲の人たちと触れあいながら成長していく物語は、視聴者の支持を受け、翌76年10月から第2シリーズが放送された。
この作品がいかに多くの人たちに浸透したかを物語るエピソードがある。ある日、歌手の美空ひばりさんが「毎週、前略おふくろ様を見ている」という話が萩原さんに伝わってきた。その後、萩原さんはラジオ番組で、ひばりさんと共演したのをきっかけに、ひばりさんの自宅を訪ねることになった。
「ひばりさんと酒を飲んで話し込むうちに『歌ってあげる。何がいい?』と聞かれたんだ。『じゃあ、悲しい酒』と言ったら、本当に『悲しい酒』を歌ってくれた。座ったまま、アカペラでね。しかも、ステージと同じように涙を流しながら歌うんだ。本気で拍手喝采したよ」と萩原さんは語った。
天下の美空ひばりさんをも動かす作品の完成。役者としての脱皮は、成功した。(牧 元一)