古舘伊知郎 「舌先の巌流島」へ
2020年05月28日 12:00
芸能
各ドリンクの名称、成分、効能などを暗記した上で、異様な熱気と早さで語り切る話術が圧巻。「こちらはタウリン1000ミリグラム配合のリポビタンDです。『日本三大リン』と言えばミポリン、サリン、タウリン。なんと、1000ミリグラム入っていると言う。1000ミリグラム入っているなら、なんで正直に1グラム配合と言えないのか!?」などとまくし立てて笑いを取る。
トーキングブルースは1988年にスタートし、既に終了したトークライブシリーズ。アーカイブスを見ると、古舘がアナウンサーより落語家や芸人に近い人であることを実感する。それらはトークの域を超えた話芸である。
4年ほど前、初めてインタビューした時のことを思い出した。テレビ朝日「報道ステーション」のキャスターを卒業して数カ月ほど過ぎた頃だ。
「僕は肩書が難しいんです。アナウンサーと言えばアナウンサーなんだけれど。お笑い芸人でもないし、落語家でもない。講談師、弁士、浪花節語りがうらやましい。だって、肩書がしっかりしてるから。報道を12年やって戻ってきた今、『職業は何?』と聞かれれば『しゃべり屋』と答えます」
そう、まさに「しゃべり屋」がぴったりの人だ。実は今夏、その原点に戻ってトーキングブルースを復活させる予定だったという。ところが、新型コロナウイルス感染拡大で延期になり、今は「牛の気持ちが分かる。お乳がパンパンに張っている。しゃべりたいのに機会がない」状況だ。
そこで、検討しているのが無観客ライブ。「その発想のヒントになっているのは巌流島」と明かす。プロレスファンの間で巌流島は1987年にアントニオ猪木とマサ斎藤が無観客で戦った場所として知られる。「猪木対マサ斎藤を舌先でやる!」。近いうちにまた、しゃべり屋の極上の話芸を楽しめそうだ。
◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。