注目落語家・桂夏丸 「浅草演芸ホールに一年中出ていたい」
2020年07月14日 10:20
芸能
さっそく、客席で高座を見せてもらった。大好きだという大相撲の話がまくら。かつての八百長問題に触れ「やりたくなる気持ちは分かります。一番体を痛めるスポーツなんですから」と同情心を示した上で「落語もそうなんです。一年中真剣にやったらおかしくなる。年間の3割か4割かは無気力落語です」と笑いを取り、「きょうはやる気があります」と結んだ。確かに、面白い。
演目は「課長の犬」。上司の課長の家に子供が生まれたという話を聞き、子供に関するお世辞を同僚から学んだものの、家を訪ねてみたら、実は生まれたのは犬の子で、四苦八苦する話だ。得意の物まねと歌を聞けなかったのは残念だが、よく通る声でよどみなく話し切る力強さが印象に残った。
出番の後、近くの喫茶店で本人の話を聞いた。もちろん、冗舌。「いかに印象に残るかだと思います。うまい、へた、じゃない。面白い、つまらない、でもない。いくらウケたって、後から、誰だっけ?というのがあります。普通に落語をやって印象に残るのが一番いいんですけど、そんな人はめったにいません。圓生や志ん朝じゃないんですから。いかに爪痕を残すかどうかなんです」。全くその通りだと思う。
1984年8月15日生まれの35歳。群馬県出身で、中学生の時に落語家になろうと決意し、高校生になると浅草演芸ホールをはじめ東京の寄席に通い始めた。高校卒業後、桂幸丸に正式に入門。2007年に二つ目、18年に真打ちに昇進した。
「漫談形式の爆笑系」が目標。自身の新作落語「増位山物語」には増位山のヒット曲「そんな夕子にほれました」、「吉永小百合物語」には吉永小百合・和田弘とマヒナスターズの「寒い朝」を盛り込んで歌う。
所属する落語芸術家協会の会員によって結成されたハワイアンバンド「アロハマンダラーズ」では学生時代の吹奏楽部での経験を生かし、パーカッションとボーカルなどを担当。浅草演芸ホールの大喜利で、演奏を披露している。
「落語は趣味が芸につながります。自分が伝えたいことも芸として出せる。座布団の上に座って狭い世界のように見えるけれど、意外に何でもできるんです。相撲の話、歌、楽器…。あんまりやり過ぎると、器用貧乏になっちゃいますけどね。でも、自分が楽しんでいれば、それはお客さんに伝わります」
今月22日には、お江戸日本橋亭で「桂夏丸の会」を開く予定。現在は相撲好きとして国技館のある両国に住んでいるが「出番が終わると、隅田川沿いをフラフラと歩いて帰るのが楽しみの一つなんです。浅草のお客さんは、歌ったり、とっつきやすいネタをやると喜んでくれる。浅草演芸ホールには一年中出ていたい!」。これからもますます浅草の演芸、日本の落語を盛り上げてくれるだろう。
◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。