無自覚の才能 前田敦子の特殊性とその未来
2020年08月26日 10:00
芸能
放送後、ネット上には「ショートのあっちゃんが可愛すぎ」「小顔だからショートがめちゃくちゃ映える」など称賛の声。関係者は「番組のためにショートにしたわけではない」と話すが、その髪形で出演することで、視聴者に、より強い印象を与えたことは間違いない。
番組のステージには高橋みなみ、板野友美、篠田麻里子、柏木由紀、松井珠理奈らが並んでいた。本来ならば、視線は分散するはずだ。ところが、前田が見慣れない髪形でいるため、どうしても、そこに目が行ってしまう。前田は目立とうとしてショートにしたわけではない。偶然、無自覚にとった行動がその結果を生んだのだ。
無自覚の才能。考えてみれば、それが前田の特殊性だ。AKB時代、「不動のセンター」と称されたが、そもそも本人はセンターを志向したわけではなかった。不器用で引っ込み思案な性格で、初期の頃、自信を持てず、レコーディング時にスタジオに引きこもったこともあった。
アイドルに詳しい女性作家・Oka-ChangさんはAKB時代の前田の魅力について「非常に不安定でアンバランスで、それに気づいたファンは『僕たちが応援しなければ…』という気持ちになる。欠けているところが魅力で、その欠け方がパーフェクト」と分析している。
一見センターらしくない人間がセンターを務める。それが当時のAKBの魅力でもあった。前田がセンターでなくても国民的アイドルグループになったと考える人もいるだろうが、前田がセンターとして必要十分な貢献をしたことは事実だ。
女優になった前田は今後、どうするのか。2018年7月に俳優の勝地涼と結婚し、19年3月に第1子の男児を出産している。子育てのさなかだ。関係者によると、勝地らの協力を得ながら、可能な範囲で仕事を続けていくという。
最近では、日本テレビ系のドラマ「リモートで殺される」(7月放送)に出演。主演映画「クロユリ団地」(2013年)で仕事を共にした中田秀夫監督が、前田の可愛さと不気味さを巧みに混在させる演出をして印象的な作品になった。関係者によると、今後も映画やドラマに出演する予定がすでにあるという。
子供が成長するにつれて出演の機会は増えていくだろう。主演した映画「もらとりあむタマ子」(13年)やヒロインを務めた映画「イニシエーション・ラブ」(15年)のように特殊性が生きる作品を再び見たい。来年7月に30代を迎え、まだまだ若い。どんな女優になってゆくのか、楽しみにしている。
◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。