長州力 新たなリングのYouTube
2020年09月23日 10:00
芸能
現役時代は近寄りがたい人だった。こわもてで無口。1990年代にプロレス担当をしていた時、新日本プロレスを通じてインタビューを申し込んだが断られた。試合後の談話も短く、1996年4月の東京ドーム大会でのタッグマッチを取材した時、控室に戻って発したのは「見ての通りだ」のひと言。原稿を書くのに苦労した。今、YouTubeやテレビで明るく話す姿を見ると隔世の感がある。
最近、YouTubeでの古舘伊知郎との対談で興味深い話をしていた。「現役時代のイメージから距離を開けていった方がオレはやりやすい。リングを下りても長州力だったら、ある一定のプロレスファンだけで止まる」。つまり、YouTubeやテレビでの姿は自分の現在の感覚と実益の両面を考えた上で形成しているというわけだ。この対談で古舘は「力さんは客商売の神髄が分かっている」と指摘している。
観客や視聴者を相手にするプロデューサーとしての実力が顕著に表れたのは、95年10月の新日本プロレスとUWFインターナショナルの対抗戦だ。当時、長州は試合の組み合わせや大会企画などを主導する立場にあり、Uインターの高田延彦との電話会談で対抗戦実施を決定し、会場として東京ドームを押さえた。大会当日の入場者数は超満員札止めの6万7000人。試合も異様な盛り上がりを見せ、プロレス史に残る大イベントになった。
さかのぼれば、まだ人気を得ていない頃、先を行く藤波辰爾に対する「かませ犬」発言で頭角を現したのも、自身のプロデュース力のたまものだった。もちろん、いくら発想が良くても、試合が良くなければ人気は得られない。長州は優れたプロデューサーであり、優れたアスリートであり、優れたパフォーマーであった。
プロレスのリングは下りてしまったが、そのプロデュースとパフォーマンスの魅力に関しては今なおYouTubeで触れることができる。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。