大河「麒麟がくる」 長谷川博己の酒席場面の真相
2020年10月10日 12:30
芸能
さて、この場面。光秀は酔った勢いでつい本音を漏らしたのか、それとも、酔ったフリをして戦略的発言をしたのか。光秀は初回放送で、松永久秀(吉田鋼太郎)を相手に痛飲して深酔いしたこともあり、ネット上などに「光秀の酒癖の悪さがまた出た」との見方が散見された。
演出の深川貴志氏はこう語る。「リハーサルの前、長谷川さんから『けっこう酔って話そうと思います』という提案があった。その芝居をリハーサルで見せてもらうと、すごく良かった」。ならば、本当に酔っていたのか?
深川氏はこう続ける。「光秀は義景、景鏡の会話をしっかりと聞き、顔を見つめて考えていた。私は酔ったフリをしたと思っている。あの場面で光秀は全くウソを言っていない。その正直な意見は、一見、景鏡らの側に立っているようだが、実は義景を奮い立たせているように感じた。義景に上洛を促すためにとった作戦だったのではないか」。つまり、酔ったフリだ。
長谷川が「酔った演技」をしたのか、「酔ったフリの演技」をしたのかは明かしていない。しかし、あの場面の次の場面を見れば、結論は見えてくる。光秀は一門が集まる酒席を離れ、伊呂波太夫(尾野真千子)と会話するが、酔った様子は全くなかった。前の場面で酔っていたのなら、ほとんど時間が経過していない次の場面で、しらふだったら整合性を欠くことになる。
考えてみれば、酔った演技と酔ったフリの演技は紙一重だ。視聴者がすぐに、酔ったフリをしていると分かってしまう演技をすれば、物語の緊張感を損なうことになる。
そもそも酔った演技自体が難しい。人の酔い方は千差万別だからだ。いくら酔っても表面的に変わらない人だって世の中にはいる。酔っているか、酔っていないか、どちらとも取れるくらいの演技が、ちょうど良いのではないか。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。