藤井2冠、最年少3冠持ち越し 永瀬王座に逆転負けで王将挑戦かなわず
2020年10月27日 05:30
芸能
努めて無表情を装いながら、心では絶叫していただろう。戦型が定まらないまま迎えた後手・永瀬の12手目。8二の飛車がするすると横に滑り、4二に着地する。居飛車が売りの永瀬が選んだ究極の勝負形「四間飛車」だ。公式戦では約3年ぶりの布陣に、さしもの高校生2冠も面食らった。わずか1分の思考で▲5六歩と応じた一方で「(振り飛車は)事前に予想していなかった」と、当惑ぶりを明かしている。
心にさざ波を立てられながらも、歯を食いしばりながら想定外の事態を処理していく。美濃囲いに組んだ永瀬王に対し、右辺の遠い位置に竜を2枚配置して迫力のある攻撃を展開。終盤の入り口では優位を築くまで巧妙に指し手を進めた。正着を指し続ければ勝利という名のゴールに到達する条件はしっかりと整えた。だが「軍曹」の異名を持つ永瀬もただ者ではない。攻撃の起点となるはずだった1二竜を106手目△2二歩で封じられ「なかなか厳しくなりました」。以降は苦労して得たリードを徐々にはき出し、無念の逆転負けだ。
「中盤で少しチャンスがきたような場面もあったが…難しくて分からなかったです」
リーグ前は挑戦権獲得候補筆頭格にいた藤井にとって悪夢の脱落。同時にリーグ陥落の可能性も抱えてしまった。瞬く間に無冠から2冠に出世した日の出の勢いは、深まる秋の中で停滞を強いられた。
それでも羽生善治九段(50)の持つ史上最年少3冠記録(22歳3カ月)の更新機会は依然として残っている。記録という記録をことごとく塗り替えてきた藤井の戦いは、これで終わったわけではない。 (我満 晴朗)
《次は「叡王」に挑戦か》羽生が持つ史上最年少3冠記録更新への挑戦は来年度に持ち越し。挑戦者資格を得られるA級に所属しないため名人戦には挑戦できず、3冠目で可能性があるのは5つのタイトル。スケジュールを見ると、例年通りなら叡王戦の7番勝負が4~6月に行われる。だが、来年度から主催社が代わることになり、29日に詳細が発表される。日程が後ろにずれれば、例年9~10月に5番勝負がある王座戦が最も早い挑戦となる可能性がある。以降は竜王戦、王将戦、棋王戦の順だ。