大河「麒麟がくる」 坂東玉三郎と川口春奈の視覚的インパクト
2020年11月02日 11:00
芸能
最初の登場シーン。医師の望月東庵(堺正章)と囲碁を打っている。部屋が薄暗く横顔しか見えない。「織田信長が上洛(じょうらく)の折、参内したいと申しておる。会うべきか。どうであろうか」。話の内容から天皇が語っているのだと分かる。「どのような武将であろうか」。その後、ひげをたくわえた口元だけが映し出される。
次の登場シーン。信長(染谷将太)が参内し、拝謁(はいえつ)する。正親町天皇は御簾(みす)の向こう側にいて、顔がよく見えない。そのまま終わるのかと思いきや、次の場面でアップの映像となる。突然、背後に流れていた効果音が消えうせて無音。天皇も無言。表情も動かない。しかし、その存在感が尋常ではない。刺激的な映像だ。
演出の大原拓氏は玉三郎について「オーラがある。有無を言わさず、すごい。撮っていても、普通の感覚とは違う。ご本人が帝(みかど)を敬い、役に真摯(しんし)に向き合っているから、われわれもそれに引っ張られる」と明かす。
玉三郎は大河初出演で、ドラマ出演も初めて。映像でその姿を見ることが極めてまれな人だ。
大原氏は「われわれにとって幸運なこと。玉三郎さんを映像に残せること、芝居を撮れることがうれしい」と語る。
もう1人は、信長の正室・帰蝶を演じる川口春奈。帰蝶の登場は、コロナ禍でドラマの放送が休止となる前の6月7日以来、約5カ月ぶりで、8月30日の放送再開後は初めてだ。
明智光秀(長谷川博己)が信長を訪ねるシーン。帰蝶は信長の居場所に座っていた信長の子・奇妙丸に「そこはそなたの座ではあるまい。こちらへおいで」と厳しく声を掛ける。光秀に「帰蝶さま」と呼び掛けられ、振り向いて「十兵衛、懐かしいのう」と感嘆する帰蝶。その顔がきらめいている。ここで帰蝶と奇妙丸の回想シーンが流れるが、そのシーンよりも帰蝶のりりしさや美しさ、輝きが増していることがはっきり見て取れる。
この場面には演技以上のものが映っていると感じる。川口自身の充実ぶりだ。スタート当初は沢尻エリカの代役、しかも初めての時代劇で手探りの部分もあっただろう。しかし、芝居を続けていくうちに手応えを感じ、自信も芽生えたに違いない。そんな内面の確かさが視覚的インパクトを生じさせた要因ではないか。
信長に朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)討ちを勧めたことを光秀に明かした帰蝶。あらためて、信長のプロデューサー的存在であることを示し、このドラマの重要人物であることを印象づけた。さて、次の登場はいつ?
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。