大河「麒麟がくる」 染谷将太の異様な号泣の裏側
2020年11月09日 12:30
芸能
場面が変わって、家臣たちが集まる一室。どこからか、誰かの叫び声が聞こえてくる。「なんじゃ?」といぶかしがる家臣たち。場面が戻ると、信長が1人で、うめき声を上げている。まるで獣のようだ。目からあふれ出る涙。激しく動く体。泣いているというより、全身が崩壊しそうなのを懸命にこらえているという感じ。こんな異様な号泣を過去に映像作品で見た記憶がない。
この場面は、脚本には2行しか記されていない。1行目は「信長、声を上げて泣いている」、そして、2行目は「号泣」。極めて簡潔なト書きだ。これを読んだだけで、染谷のあの芝居を想像する人はいないだろう。
演出の一色隆司氏は「時間をかけて染谷さんと話した。裏切った浅井に対する怒りから始まり、自分が負けるという屈辱感からわき出る呪いのような思い、自分自身に対する怒りと失望。それらの思いが入り乱れながら涙があふれ出る。そのようなアプローチでシーンを作り上げた」と説明する。
複雑に入り組んだ負の感情の発露。言葉で表すのは難しくないが、役者が無言で表現するのはどうだろう…。決して容易ではないはずだ。
放送された約30秒の場面は、数分間の芝居を2回撮影して編集したもの。あのような演技は何度もやり直せないため、現場には緊張感が漂っていたという。
一色氏は「染谷さんはこちらが伝えた話を体感して心を作って具現化できる役者。例えば『怒りを加えてほしい』と言えば、それをきちんと自分の中に飲み込んで、そのニュアンスを出すことができる。自分にはない感覚のキャラクターでも、なり切ることができる。想像力が豊かなのだと思う。あの場面は、将来、信長が見せる『狂気』のにおいがすれば良いと考えていたが、うまくいったと思う」と話す。
これから信長は比叡山焼き打ち、将軍追放、朝倉・浅井討伐へと進んでゆく。史実として、信長の異様さを示すエピソードも残されている。果たして染谷はどんな表現を見せるのか。
一色氏は「信長は今後もっと世の中的にわがままな武将になり、大魔王になる。いろいろな感情表現があると思うので、ますます大変だと思う」と語る。染谷の弾け具合に期待する。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。