木村文乃 たたずまいで「女神」を表現できる魅力
2020年12月14日 12:00
芸能
演出の一色隆司氏は「光秀にとって唯一心から安らげる場所が煕子のいる家庭。史実でも側室を持たなかった光秀という人物にとって、煕子、そして家族が特別な存在だったことは想像に難くない。それを大切にして演出した」と話す。
光秀が煕子にひざまくらをしてもらうシーンもあった。台本には「ゴロンと横になる」と書かれていたが、一色氏は演出プランとして、ひざまくらに変更しようと考えた。ところが、それを言い出す前に長谷川から「あのシーンですが、ひざまくらでどうでしょう?」と提案されたという。
一色氏は「思いが完全にシンクロしていたことに驚くとともに、光秀と煕子の関係をきちんとつちかって来られたのだと実感できた。城の天守のシーンで、光秀が煕子の手をとって外を見るように誘うしぐさも、長谷川さんと木村さんによって自然に生み出された。演出の域を超え、お二人が役をつかんでいるたまもの」と指摘する。
夫婦愛の場面を味わい深いものにしているのが煕子の人物像だ。一色氏によれば、煕子は「良心の人」。ずっと光秀を待ち続け、そして、結ばれ、夫を信じて前向きに生き続ける。どんな時も、どんな状況下でも夫を支え、勇気づけ、そして、しっかりと家庭を守る。心の中にはさまざまな葛藤や悲哀があるだろうが、決してそれを表面に出さない。この役柄を演じるのは容易ではなさそうだ。
一色氏は「木村さんは、そのたたずまいで、いとも簡単に演じていらっしゃる。単に明るい女性ではなく、その裏に潜む悲しみや、弱さを感じさせるオーラを放ち、煕子という人物を立体的に表現してくださっている。木村さんの持つ雰囲気が演出のレベルをはるかに超え、煕子というキャラクターの造形に寄与している」と明かす。
確かに、煕子の魅力は演技力だけで出せるものではない。どう演じるかより、むしろ、どんな女優が演じるかが重要で、成否はキャスティングにかかっていたのではないかと思う。
一色氏は「木村さんは、とても不思議な役者さん。人のいろんな側面を同時に表現できる、まれな魅力を持っている。喜びと悲しみ、怒りと憂い、強さと弱さ、冷たさと温かさなど相反する感情を同時に持たせ、キャラクターを立体的にする。煕子は光秀の女神であり、その神々しさを、そのたたずまいで表現できるのは、役者としての魅力以外の何ものでもない」と語った。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。