杉咲花 朝ドラ「おちょやん」で示す力量
2020年12月17日 08:30
芸能
シズは「いいかげんにしなはれ!」と怒鳴るが、千代は一歩も引かない。熱い口調で「うちは、ごりょんさん(シズ)に恩返しがしたい。ただそれだけなんだす。ごりょんさんに後悔してもらいたくないのだす」と思いを語り、深く頭を下げる。シズの目にうっすらと浮かぶ涙。2人の思いが深い部分で通じ合ったことが的確に表現され、忘れがたい場面となった。
これまでさまざまな演技を重ねてきた篠原と、まだ若い杉咲の拮抗(きっこう)した芝居。この場面を見て、杉咲の役者としての力量をあらためて認識することができた。
制作統括の櫻井壮一チーフプロデューサーはかねて「このドラマの見どころは?」との質問に「杉咲花さん」と答えている。見どころが、女優個人…。11月30日に放送が始まり、2週にわたって子役が主軸だった中では疑心暗鬼だったが、ここに至ってようやくその答えを理解する糸口をつかめた。
櫻井氏は「杉咲さんはコメディエンヌ的な芝居や感情を爆発させる芝居など、幅広く演じている。これから、みなさんは『こんな表現をする女優なんだ!?』と、その幅の広さに驚かれると思う」と話す。確かに、その片りんがあの場面でうかがえた。
主人公の千代は大阪・南河内の出身という設定。東京出身の杉咲は、大阪ことばを学ぶため、昨年11月から大阪で練習を重ねた。櫻井氏は大阪出身の女優ではなく、杉咲を起用した理由について「千代はやがて女優になる。主演は千代の生活とともに、劇中劇、しかも喜劇を演じなければならい。難易度が高く、本当に演技がうまい人じゃないとできないと考えた」と説明する。つまり、このドラマを制作するに当たり、何より杉咲の演技力を重視したというわけだ。
ドラマはまだ始まったばかり。杉咲がこれからどんな芝居を見せてくれるのか。さらなる名場面に期待する。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。