小田和正 「クリ約」のない2020年冬

2020年12月25日 09:00

芸能

小田和正 「クリ約」のない2020年冬
小田和正 Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】時を経てから、その価値の高さに心を震わすことがある。2016年放送のTBS「クリスマスの約束」がそのひとつだ。
 あの年、都内のライブハウスで番組収録を取材した。ゲストの1人が宇多田ヒカル。01年の「クリ約」で、小田和正が宇多田の「Automatic」を一緒に演奏しようと、宇多田に出演要請の手紙を送ったが、出演は実現せず、結局、小田が1人で「Automatic」を歌った。それから、15年。ステージで小田が「やっとできます」と話すと、宇多田は「長いこと、お待たせしました」と応じた。

 小田と宇多田の共演の価値は分かっていたつもりだった。しかし、当時を振り返ってみると、どのように記事をまとめるかに考えをめぐらせていて、2人が奏でる音に没頭できていなかった。それから、4年。いまあらためて番組を見直すと、あの時、あの場所で、奇跡と言っても良い時間を共有していたのだと痛感する。

 小田は当時69歳、宇多田は当時33歳で世代が全く異なる。音楽的にも共通する要素が多いとは感じられず、声質的にもハーモニーが得られやすいとは感じられない。そんな2人が並んで歌った「Automatic」。そこから聞こえて来たのは、本来は交わらないものが交わったからこそ生まれた強固な音だった。小田のアコースティックギター伴奏で歌った宇多田の「花束を君に」、ロック調に編曲した小田の「たしかなこと」。いずれも、とても力強く、胸に響いた。

 今年はコロナ禍の影響で「クリ約」は放送されない。16年の番組などが動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で視聴できるが、毎年、この時期の放送を楽しみにしてきたファンにとって、新作を見られないのは寂しい限りだ。この1年を振り返れば、小田が公に演奏したのは9月の無観客配信ライブ「音市音座」だけ。その歌声を待ち望む多くの人たちの心が満たされないままの年末となった。

 現在、小田の「会いに行く」が使用されたCM「JAL×コカ・コーラ2020『Airport』篇」がYouTubeで視聴できる。♪会に行く どこにでも その笑顔に会うために…と優しい声で歌う小田。今はコロナ禍で、会いたい人にもなかなか会えない状況で、CMの最後に映し出される「2021年、みんなが逢える年でありますように」との文字が多くの人たちの思いと合致する。それはきっと小田の願いでもあるだろう。

 来年1月1日には明治安田生命企業CM曲「風を待って」が配信限定シングルとしてリリースされる。2018年5月発売のシングル「この道を/会いに行く/坂道を上って/小さな風景」以来の新曲。♪今は戻らないから 大切なんじゃなくて 今を重ねて 明日へ つながっていくから…と、小田が温かく優しい声で歌っている。

 関係者によると、小田は現在、さらに新曲を製作中。来年のどこかのタイミングで、われわれの耳に届く予定という。

 新曲やニューアルバムを携えてツアーに臨むのが、これまでの小田の流儀。コロナ収束のめどが全く分からず、予定を立てることが不可能な状況だが、その歩みは確実に進んでいるとみられる。

 つらいことばかりだった2020年も終わりが近づいてきた。来年は、新たな「クリ約」を楽しめる冬を迎えられることを願ってやまない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。
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