ドラマ「おもひでぽろぽろ」松坂慶子(下) 「元気で長く女優を」
2021年01月07日 10:00
芸能
「20代の頃、作家の三浦朱門さんと対談か何かでご一緒した時、『女優をやめようと思うんです』と弱音を吐いたことがあります。すると、三浦さんは『それは鬼の目に涙だな。松坂さん、運鈍根ですよ』と言ってくれました。運も大事、うまくいかない時はそれをやり過ごす鈍感さも大事、根気も大事。意外に、鈍も大事なのかと思って、それから『運鈍根』と思いながら続けて来ました」
タエ子が女優を夢見たのは学芸会で演技をほめられたことがきっかけ。その夢はかなわず、封印したつもりだったが、還暦を超えて再び志すことになる。芝居とは、それほど魅力的な世界なのかもしれない。
松坂は「役を頂くと、初めは『私にできるかしら』とドキドキします。でも、練習したり、監督の話を聞いたり、アンテナを広げて日常の観察の中からヒントを得たりしていくうちに、どんどんイメージが出来上がっていきます。それで演じてみて、監督に『それでいい』と言われると、だんだん楽しくなって来ます。最初は薄氷を踏む感じなのに、手応えを感じて来ると、厚かましいことに『この役は私しかできない』と思ってしまいます。何かいつもそんなふうです」と笑う。
今や超ベテランの域に達しているが、努力を続けている。現在のセリフの練習法が独特。まず、台本に記された自分と相手役のセリフを全て録音機に吹き込み、次に、相手役のセリフだけ吹き込んでそれを聞きながら練習する。
「以前からやってましたが、特に『西郷どん』(2018年の大河ドラマ)と『まんぷく』(同年の連続テレビ小説)のセリフが方言だったので、そうせざるを得なかったんです。そうすると、よく分かるので、今でも続けています」
俳優業は基本的に引退がない。日本人女性の平均寿命は87歳超。元気でいれば、まだまだ芝居を続けられる。
「チェン・カイコー監督の映画「空海」(18年公開)に出た時、96歳の中国の女優さんが出ていたんです。その方を拝見して『ああ、私も元気であそこまで仕事ができたらいいな』と思いました。今のように人生が長く続く時代なら、作品にもそういう登場人物がいなくちゃいけない。元気で長く続けていけたら楽しいと思います」
これまで数多くの役柄を演じてきた。今回のドラマのように、64歳にして女優の道を歩み始める役もある。これから演じたいのは、どんな役なのか。
「柔らかい役が続いているので、その正反対の役をやってみたい。ちょっと良くない人、清濁併せ持った人の役。市川崑監督の映画「犬神家の一族」(06年公開)で犬神竹子を演じた時、市川監督に『余裕を持って、楽しんで。それが極意ですよ』と言っていただきました。とんでもない人物でも、余裕を持って、楽しんで演じていきたい。これからどんな出会いがあるかしら…?今、そう思っているところです」とほほ笑んだ。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。