寄席に行けずとも機内で楽しんだ名人会
2021年01月07日 17:30
芸能
寄席の代わりといってはなんだが、昨年12月と今年1月に搭乗した日航機内で「JAL名人会」を楽しんだ。つかの間の気休めにはなった。12月は林家木久扇(83)の「彦六伝」、1月は五代目桂文三(53)の「堪忍袋」と六代目桂文枝(77)の創作落語「誕生日」が流れていた。それぞれ「桂つく枝」と「桂三枝」時代の音源だ。
活動弁士の坂本頼光(41)が案内役。一昨年12月に公開された周防正行監督(64)の「カツベン!」で、主役の成田凌(27)らを指導した弁士で、映画公開前に取材する機会があった。活動弁士を「令和の超絶滅危惧種」と表現する坂本は講談の神田伯山(37)とジョイントするなど精力的に活動を展開中の才人だ。
さてここから本筋に入ろう。木久扇の「彦六伝」は木久蔵時代の録音。おなどみの演目だが、何度聞いてもおかしい。マクラはその時々で変わるが、イヤホンの向こうからは次のような話が聞こえてきた。
最初の師匠の三代目桂三木助(61年没、享年58)が他界した時、おかみさんが「古典をやりたいなら(六代目)三遊亭円生さんか、(八代目)林家正蔵さん(のち彦六)がいい。でも円生さんは亡くなった(八代目の春風亭)柳枝さん(59年没、享年53)の弟子を引き受けているから正蔵さんの方がいいかもね」と世話を焼いてくれたというエピソードだ。
ひょっとしたら「彦六伝」は「円生伝」になっていたかもしれないのだ。そう思うと、どんな話になったのか想像するだけで楽しい気分になった。
八代目柳枝から円生門下になった1人が三遊亭圓彌。2006年に69歳で逝ったが、この人が真打になったのが72年9月。昨年12月17日に77歳で死去した「チャラ~ン」の林家こん平と同時昇進だった。
3月に62年ぶりに柳枝の九代目が誕生する。彦六の孫弟子に当たる春風亭正朝(67)の弟子、正太郎(39)が襲名。落語界のビッグイベントだ。
そういえば、正朝の出囃子は「長崎ぶらぶら節」。昨年12月23日に82歳で亡くなった作詞家なかにし礼さんのことを思い出して感傷にふけった。(一部敬称略)