大河「麒麟がくる」 川口春奈の「奇跡」
2021年02月01日 09:30
芸能
しかし、それだけで終わらない。道三の思惑で信長に嫁がされた過去を振り返り、光秀に「『行くな』と言ってほしかった」と胸の内を明かす。長く秘めてきた女性としての深い思い。「私はそう(信長に毒を盛ると)答える父上が大嫌いじゃ」と本心を語り、光秀と笑い合う姿が愛らしかった。
その後、立ち上がって外に向かうと、光の刺激で顔をしかめる。目の病気のためだ。若かった帰蝶も、物語の流れとともに年齢を重ねたことを物語る場面。演じる川口の愁いに満ちた表情が秀逸だった。
川口はここまでの撮影を振り返り「『麒麟がくる』で帰蝶の役を演じることができて、自信と誇りを持てたと同時に、この物語の中に少しでも携わることができたのは奇跡だなと思っています」と話す。
確かに、一種の「奇跡」を感じる。もともとは沢尻エリカの降板で急きょ引き受けた代役。初めての大河で、しかも時代劇初挑戦。本人も手探りの部分が多かっただろう。ところが、初登場から自然な滑り出しを見せ、回を重ねるごとに光の強さが増す印象だった。特に、コロナ禍でドラマの放送が一時休止になり、約5カ月ぶりに登場した昨年11月以降は、存在するだけで輝いているように見えた。撮影を続けていく中で手応えを感じ、自信を深めていったことで演技が充実したのだと推察する。
ドラマ関係者は「この大河の帰蝶は、光秀とともに信長をコントロールしてきた異色のキャラクター。素顔の川口さんはボーイッシュで、あっけらんとした女性だが、女優として、堂々としていながらもチャーミングな雰囲気をつくり出してくれた」と演技力を強調する。
もはや、代役だったという感覚は霧散した。川口でなければドラマの魅力は減少したのではないかとさえ思う。この先も、数々の映像作品に、誰かが演じる帰蝶が登場するに違いない。そして、その時、きっと、今作の川口と比較することになるだろう。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。