プロレスラー・上谷沙弥 アイドルの道からリングの頂点へ

2021年02月04日 08:30

芸能

プロレスラー・上谷沙弥 アイドルの道からリングの頂点へ
プロレスのリングで躍動する上谷沙弥(C)スターダム Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】夢がある。アイドルを志した女性がプロレスラーになる。それだけではない。チャンピオンを目指す。「STARDOM(スターダム)」のリングで戦う上谷沙弥(24)だ。
 「リングに立つと、違う自分になれます。自分の内から出るものを抑えずに、ありのまま表現しています」

 素顔は柔らかく滑らか。アイドルを夢見た女性の面影が強い。ところが、リングに上がれば一変し、激しく強靱(きょうじん)。今年1月17日に、団体の頂点「ワールド・オブ・スターダム選手権(赤いベルト)」に挑戦する意向を、東京・後楽園ホールの観客の前で表明した。

 「あの時は心臓バクバクでした。私はシングルの実績がありません。案の定、お客さんは白けてました。怖かった。リングを下りてから、号泣しました。自分は結構メンタルが弱いので、ギリギリのところでやっている感じ。でも、待っているだけじゃ、しょうがない。自分の可能性を信じて、赤いベルトを取りに行きます」

 運営側もその意向を承認。3月3日に東京・日本武道館で行われる団体10周年記念大会で、赤いベルトを持つ林下詩美(22)と戦うことが決まった。

 ここまでの道筋は真っすぐではない。本来の願いはアイドルとして生きていくこと。転向のきっかけは、団体に関係するグループ「スターダム★アイドルズ」に入ったことだった。

 「ずっとアイドルを目指していた中で、運営さんに『プロレスラーに向いているのでは?』と誘われました。プロレスは見たことがなかったし、殴ったり殴られたりするのは怖かったけれど、挑戦してみようと思いました」

 身長1メートル67、体重55キロと恵まれた体格。小学生の時に器械体操にいそしんだ運動神経、10年以上にわたってストリートダンスで鍛えた筋力があった。

 「アイドルとしてはコンプレックスだった身長の高さが長所になって良かったです。リングに立つ度胸や立ち姿、しぐさ、表情、お客さんに感動してもらおうというところはアイドルに通じる部分があります」

 運営側は「スーパールーキー」として期待。一昨年12月に新人王決定トーナメントで優勝し、昨年7月にはタッグのタイトル「ゴッデス・オブ・スターダム選手権」を林下詩美と2人で獲得した。

 空中技が得意で、必殺技はトップロープから回転して相手に落下する「フェニックス・スプラッシュ」。身長が高いだけにインパクトが強い。バク転からのドロップキックも鮮烈。体も柔軟で、えび反りの角度が尋常ではない。そして、何より、戦いのさなかの表情、たたずまいに、可能性を感じる。プロレスは観客に見せることを重視したジャンルであるため、強さとともに、そこがとても重要だ。

 「体のシルエット、後ろ姿、手先、頭の先まで意識しています。リングでは相手の選手と戦っているけれど、1番の相手はお客さん。自分の『悔しい』『うれしい』という感情をお客さんに伝えながらプロレスをやりたいと思っています」

 赤いベルトに挑む試合は、ここまでの活動の集大成。チャンピオンの林下とは、昨年2月に惜敗して以来のシングル対決となる。

 「これまで出したことのない技が何個かあるので、温めて温めて、その日に出したい。今は必死で、まだ、その先のことは描けていないんですけど、いろんな所から飛んだりしてお客さんの度肝を抜かし続けるチャンピオンになりたいです」

 キャッチフレーズは「私が未来のスターダム」。3月3日の一戦は、団体の未来とともに自身の未来を占う。

 アイドルから離れて進んだ道に間違いはないか?その問いに対する答えは、「そう信じたい」。リング上と同じ力強いまなざしが返ってきた。

 ◇上谷 沙弥(かみたに・さや)1996年(平8)11月28日生まれ、神奈川県出身の24歳。2014年、バイトAKBのメンバーに。16年、太田プロダクションのワークショップオーディションに参加。18年、スターダム★アイドルズに加入。19年、スターダムのプロテストに合格し、レスラーとしてデビュー。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。
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