「麒麟がくる」池端俊策氏が語る本能寺の変「ずっと悩んで」決定打は平蜘蛛 光秀“親友”殺した心の痛み

2021年02月06日 05:00

芸能

「麒麟がくる」池端俊策氏が語る本能寺の変「ずっと悩んで」決定打は平蜘蛛 光秀“親友”殺した心の痛み
大河ドラマ「麒麟がくる」最終回(第44話)。本能寺に向かう明智光秀(長谷川博己)(C)NHK Photo By 提供写真
 俳優の長谷川博己(43)が主演を務めるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」(日曜後8・00)は7日、15分拡大版で最終回(第44話)。戦国最大のミステリー「本能寺の変」(天正10年、1582年)が描かれる。脚本の池端俊策氏(75)が今作最大のクライマックスの舞台裏を明かした。
 大河ドラマ59作目。第29作「太平記」(1991年)を手掛けた名手・池端氏のオリジナル脚本で、智将・明智光秀を大河初の主役に据え、その謎めいた半生を描く。昨年1月19日にスタート。新型コロナウイルスの影響により、途中、約3カ月の撮影&放送休止を挟み、1~12月の暦年制としては史上初の越年放送となった。

 美濃時代の主君・斎藤道三(本木雅弘)の言葉「あの信長という男は面白いぞ。あの男から目を離すな。信長となら、そなたやれるやもしれぬ。大きな国をつくるのじゃ。誰も手出しのできぬ、大きな国を」(昨年5月3日、第16話「大きな国」)を胸に、織田信長(染谷将太)と二人三脚で歩んできた光秀(長谷川)。朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)と戦った信長の撤退戦「金ケ崎の退き口」(元亀元年、1570年)を描いた第31話「逃げよ信長」(昨年11月8日)においては「織田信長は死んではならんのです!」と土下座までして説得したが、ついに袂を分かつことになる。

 池端氏は「光秀と信長の『不思議な友情物語』を1年通して描いてきました。光秀と信長は一緒に上洛し、大きな世の中にして平和をもたらそうと動いてきましたが、その先に『本能寺の変』があるとは思えないんですよね。この信長を殺すとは光秀自身も思っていなかったでしょうし、信長も光秀に殺されるとは思っていなかった。どうやって『本能寺の変』にもっていくのか、実は僕もずっと悩んでいて」と打ち明けた。

 比叡山焼き討ち(元亀2年、1571年)を描いた第34話「焼討ちの代償」(昨年11月29日)ぐらいから、2人の間に溝が生じ始めた。光秀は信長の命令に反し「わたくしの一存で、女、子どもは見逃しました。お許しくださいませ」。信長は「それは聞かぬことにしておこう。他の者なら、その首、はねてくれるところじゃ」

 池端氏は「34~35回(『焼討ちの代償』『義昭、まよいの中で』)あたりから、ちょっとずつ分かってきて、37~38回(『信長公と蘭奢待』『丹波攻略命令』)で『あ、こうすれば本能寺にいくな』と思いました。決定的になったのは、第40回で松永(久秀)が亡くなったシーン。残された平蜘蛛の意味を考えていくうちに『つまり、ここで光秀は信長と離れていくんだ』と明確になっていき、そこからはクライマックスに向けて坂道を転げ落ちるような勢いで一気に書き上げました。40回というのは、僕にとって非常に大きな回でした」と回想。天下一の名物と謳われる茶器「平蜘蛛」を本能寺の変へのキーアイテムとする発想が“決定打”となった。

 「神回」の呼び声も高い第40話「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐも)」(1月10日)。松永久秀(吉田鋼太郎)は信長に反旗を翻し、自害。伊呂波太夫(尾野真千子)は松永から預かっていた平蜘蛛を光秀に渡し「松永様は仰せられました。『これほどの名物を持つ者は、持つだけの覚悟が要る』と。いかなる折も、誇りを失わぬ者、志高き者、心美しき者。『わしは、その覚悟をどこかに置き忘れてしもうた』と。十兵衛に、それを申し伝えてくれ」――。松永は殊のほか平蜘蛛を欲しがった信長には譲らず、「光秀、おまえが麒麟を呼ぶんだよ」「そのためには、信長とは縁を切りなさい」(池端氏)という“遺言”とともに光秀に託した。麒麟は、王が仁のある政治を行う時に必ず現れるという聖なる獣。

 大詰めが近づくにつれ、暴走を続ける信長と光秀の亀裂は深まるばかり。その中、松永をはじめ、妻・煕子(木村文乃)は「私は麒麟を呼ぶ者が、十兵衛様、あなたであったなら…ずっとそう思っておりました」(1月3日、第39話「本願寺を叩け」)、正親町天皇(坂東玉三郎)は「(不老不死のまま月に閉じ込められた『桂男』の逸話を持ち出し)朕はこれまで数多の武士たちがあの月へのぼるのを見て参った。そして皆、この下界へ帰ってくる者はなかった。信長はどうか。この後、信長が道を間違えぬよう、しかと見届けよ」(1月17日、第41話「月にのぼる者」)、足利義昭(滝藤賢一)は「(駒に届いた手紙の中で)十兵衛となら、麒麟を呼んで来れるやもしれぬと。そういう埒のないことを思うたと。海辺で暮らしていると、そういう夢ばかり見るのだと」(1月24日、第42話「離れゆく心」)。周囲の“期待”に、光秀は「信長の暴走を止められるのは自分」「麒麟を呼べるのは自分」と突き動かされてきた。

 本能寺の変へ“外堀”が埋まっていく中、前回第43話「闇に光る樹」(1月31日)。帰蝶(川口春奈)も「(道三なら)毒を盛る、信長様に。胸は痛む。我が夫、ここまで共に戦うてきたお方。しかし父上なら、それで十兵衛の道が開けるなら、迷わずそうなさるであろう。あの時、父上は織田家に嫁げと命じ、そなたもそうしろと。私は、そう命じた父上を恨み、そなたをも恨んだ。行くなと言ってほしかった。あの時、事は決まったのじゃ。今の信長様をつくったのは父上であり、そなたなのじゃ。その信長様が独り歩きを始められ、思わぬ仕儀となった。やむを得まい。よろず、つくった者がその始末を成す他あるまい。違うか。これが父上の答えじゃ」と光秀の背中を押した。

 そして、宿敵・武田家を打ち滅ぼした戦勝祝いの席。徳川家康(風間俊介)らを前にし、光秀は信長から「膳が違うぞ」と理不尽な叱責を受ける“公開パワハラ”。信長が月にのぼるのを阻もうと、月にまで届く巨大な大木を切る不思議な夢が現実のものになりつつある。

 最終回、光秀が心を決める“最終的な動機”は何か。池端氏は「光秀は信長を殺したくて殺すわけでもなく、憎らしいから殺すわけでもありません。やむを得ず、自分の親友を殺したんです。ここまで一緒に歩いてきて、一緒に夢を語った相手を殺すのはつらいですから、本能寺で信長を殺しても『やった!』という快感ではなく、悲しさがありますし、大きな夢を持った人間はやはり大きな犠牲を払わなければならない。その心の痛みを描きました」。光秀を待ち受ける運命に、列島が固唾をのんでいる。
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