林家木久蔵 華のある高座 「フワッとなっていただきたい」

2021年02月17日 10:00

芸能

林家木久蔵 華のある高座 「フワッとなっていただきたい」
浅草演芸ホール楽屋ののれんをくぐる林家木久蔵                               Photo By スポニチ
 【牧 元一の孤人焦点】なんとも浮世離れした世界がそこに広がっている。これだから寄席は楽しい。
 仕事をしない若旦那が趣味として鍼(はり)に凝る。目を付けられた、たいこ持ちの一八は、若旦那が飼っていた猫のタマが鍼の練習台になったことを知ると「タマはどうなりました?」とこわごわ質問。若旦那は「真実は意外なところに潜んでいる。『飼っていた…』と過去形になっている」と平然と答える。

 勢いづいた若旦那は一八に「打ってほしいのは、金の鍼、銀の鍼、普通の鍼?」とイソップ寓話(ぐうわ)のような質問。観念した一八は「普通の鍼でお願いします」と答えながらも、被害を小さくすべく、腹部への打ち方として「『皮つまみ、横打ち』でお願いします」と注文する。間抜けなやりとりが実におかしい。

 林家木久蔵が浅草演芸ホールで演じた「幇間(たいこ)腹」。安穏とした非日常的空間を満喫させてもらった。

 浅草演芸ホールの席亭・松倉由幸氏は「木久蔵さんには華があります。出てくると、高座がパーッと明るくなる。それは持って生まれたものでしょう」と指摘。その芸風に関して「ネタ数が増えていて『竹の水仙』『宮戸川』『紙入れ』など、きっちりとした古典もやっている。落語家らしくない風情の人が噺(はな)しているイメージがあって、若い人たちをキャッチする力を持っていると思います」と話す。

 木久蔵は「落語のゆったりとした良い部分、せかせかしていない感じ、朝から晩まで酒を飲んでいるような世界を、聞いて笑っていただきたい。今の世の中は、処理できないほど情報量が多くて、みんなが評論家、ジャッジを下す人みたいになっているから、疲れてしまう。僕は、ふんわりしたい。頭を空っぽにして笑えるものをやりたい。みなさんにフワッとなっていただきたい」と話す。

 1975年生まれの45歳。林家木久扇の長男で弟子。2007年に真打ちに昇進した際、二代目林家木久蔵を襲名した。

 「襲名した時、初めて震えました。『林家木久蔵』はおバカの象徴だったので、震えが来るなんて想像しなかったんです。ところが、襲名に併せて世の中が動き始めた時、事の大きさに気づきました。こんなに世の中を巻き込むことなんだ?と。あれから14年。今は、しっくり来ているような、来ていないような…。父と2人で街を歩いていて『木久蔵さん』と呼ばれると、2人とも振り向く。『共有のもの』という感じがします」

 そう話すが、人気者の父親に対する複雑な思いは全く感じさせない。

 「僕がまだ二つ目の時、二世の噺家がみんな親と比べられて、芸に苦しんでました。僕は、そういう世界なの?と思ったんです。父は古典を極めようとする人じゃなく、楽しいことをする人、おバカキャラだから、肩ひじを張る必要がなかった。歌丸師匠とかに『君は落語を最後までできて偉い』とほめられていたくらいですから。僕は、父の息子に生まれて楽しく生きて来ました。今までずっと楽しかったんです」

 その屈託のなさが高座に表れる。場を明るくする。鍼に興じる若旦那の個性を際立たせ、笑いを広げる。

 「他人の3倍、4倍、5倍、楽しいこと、楽しい思いをしている方が、お客さんに面白いことを伝えられるんじゃないかと思っています。それが僕のカラーに合う。楽しいことを伝えるためには、自分が面白くなくちゃいけない。だから、これからも好奇心の赴くまま、興味がわくことをしていきたい。生産性はないかもしれないけれど、くだらないこと、ばかばかしいことをやっていきたいです」

 高座の華やかさがさらに増しそうだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。
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