伊原剛志「自由に生きる」　昨年1月独立、YouTube開設、グローバルに活動

　【俺の顔】俳優の伊原剛志（57）は常に「自由に生きる」ことをモットーとしてきた。それを実践するように昨年1月の独立以降、YouTubeチャンネルの開設、ファッション情報の発信など表現の幅をどんどん広げている。俳優としても米国と行き来しながらグローバルな視野で活動。「毎日が非常に楽しい」と語る柔和な笑顔には充実感がみなぎっていた。（鈴木　元） 　「今思えば、小さい頃から自由に生きることを考え出していたんでしょうね」

　自身のルーツについて、こう振り返る。その思いを強くするターニングポイントとなったのが、クリント・イーストウッド監督（90）、渡辺謙（61）主演の06年「硫黄島からの手紙」だ。オーディションで西竹一中佐（バロン西）役を射止めた。

　「謙さんにできて、僕にできないわけがないと思っていた。カメラの前で好きなシーンを2つ演じたけれど、後にイーストウッドが全てを見て決めてくれたと聞いてうれしかったですね。撮影は何もかもが日本とは桁違いで衝撃を受けました。最初は緊張していたけれど、慣れてくると監督にも意見が言えるようになって、納得すれば取り入れてもらえる。ここ（海外）でやっていきたいと思いました」

　以降、英語の勉強を続け、米国の大学で聴講生として学んだこともある。12年のブラジル映画「汚れた心」もオーディションで主演を勝ち取った。加えて、俳優デビューの舞台「真夜中のパーティ」で共演して以来敬愛する奥田瑛二（71）との再共演に力が入ったという。「奥田さんに成長した姿を見せてやるぞという気持ちがあったんでしょうね。撮り終わって、共演者やスタッフとハグをしていたら涙が流れてきたんです。そんな時に奥田さんに肩を抱かれ、もう止まらなかったですね」

　照れくさそうに明かすが、それだけ達成感があったのだろう。海外志向が高まるにつれて、全てを自己責任で自由に発信したいという思いも増した。19年夏、「汚れた心」のビセンテ・アモリン監督に請われ、ブラジル映画「プリンセス・オブ・ヤクザ」の撮影で約2カ月滞在したサンパウロで決意を固め、同年末で約17年所属したケイダッシュとの契約を満了した。

　「行く前に、マネジャーには将来の方向性を考えてくると伝えてありました。帰国してから話し合い、何らかの形で残れないかという話も頂きましたが、僕の気持ちを理解してもらえた、本当にいい形での円満退社です」

　個人事務所で真っ先に手掛けたのがYouTubeの「IHARA　CHANNEL」。これもサンパウロ滞在中、ホテルで見続けていたらはまったのがきっかけだった。奥田やれいわ新選組代表の山本太郎氏（46）らとの対談や、歌も披露。公式サイトなどSNSでは、さまざまなブランドとのコラボでファッション情報を配信と、続々と新境地を切り開いている。「規制がないということがいい。テレビに出てしゃべっても、放送されるのはほんの一部。自分で企画したドラマもやってみたいと思っている。19歳で上京した時に借りた風呂なし、共同トイレのアパートがまだ残っていたので、そこから何か発信できないかと思って借りたんです」

　原点回帰の意味も込めた新たな“スタジオ”の設置。ロサンゼルスにも家を持ち、行き来しながら海外の情報収集にも力を入れている。多い時は週に4回ジムに通い、体重計に1日3回乗って食事の量を調節するなど、体調管理にも余念がない。

　「仕事が来た時に、ニュートラルな体でいたいのでコントロールしている感じ。これからも日本だけでなく、海外で自分のやりたい企画もいくつか動きだしています」。夢は膨らむばかり。自由の翼で、さらに羽ばたいていく。

　《独立後初仕事は映画「シグナル」》独立して初仕事となった映画「劇場版シグナル　長期未解決事件捜査班」（監督橋本一）が、4月2日に公開される。過去とつながる無線機を駆使して難事件を解決していくサスペンス。伊原は連続殺人事件の指揮を執りながら、20年前のテロ事件にも関わってくる警視庁刑事部長役で「自分の中にドラマを一つ持って臨みましたが、映画を見てこんなに重要な役だったんだと思いました」と苦笑いする。それでも「いろいろな意見を言われるのが役者の仕事。そのためにもヒットしてほしい」と期待を込めた。

　◆伊原　剛志（いはら・つよし）1963年（昭38）11月6日生まれ、福岡県出身の57歳。高校卒業後の82年、ジャパンアクションクラブに入団。83年、舞台「真夜中のパーティ」で俳優デビュー。96年、NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」で大きな注目を集める。「汚れた心」では、プンタデルエステ国際映画祭（ウルグアイ）で主演男優賞を受賞。