伊東四朗の座長公演で堺小春が躍動!
2021年03月23日 16:30
芸能
キャパの半分だけお客さんを入れての上演。約100分の喜劇だが、途中で15分間の換気タイムを設けるなど万全の態勢。劇場やスタッフの苦労がしのばれたが、どっこい幕が上がれば別世界が広がって、しばしコロナを忘れさせてくれた。
劇作家・田村孝裕氏(44)の脚本を、演出(出演も)のラサール石井(65)が小気味よくまとめた。リサイクルショップ「がらくたや」の店主・沢崎清太郎(伊東四朗)に、客の千代田淳二(小倉久寛)が小さな仏像を無理やり売りつけたところから話が転がっていく。
出戻り娘の美沙(戸田恵子)や孫の茜(堺小春)、さらにはギャンブル好きの客(石井)に古物商(伊東孝明)まで絡んで大きな騒動に発展する。
田村氏が「落語ベースの物語を…と石井さんからオファーいただき」と明かすように、「火焔(かえん)太鼓」や「井戸の茶碗」のエピソードが散りばめられ、落語好きはニヤリとさせられる。
ちなみに「火焔太鼓」は古道具屋の甚兵衛さんが主人公。商い下手で、いつもしっかり者の女房からお小言を食らっている。きょうも古い太鼓を仕入れてくるが、ここから思わぬ展開に…。一方の「井戸の茶碗」はこんな噺だ。麻布谷町に住むくず屋の清兵衛さんが、千代田卜斎という浪人から200文で仏像を買い受ける。これを細川家の家来、高木佐久左衛門に300文で売るが、洗っているうたちに台座の紙が破れて中から50両が出てきたから大変…。
甚兵衛さんと清兵衛さんを足して2で割ったような人物像の清太郎。伊東のとぼけた味にじわじわと笑いが込み上げて来て、観ているこちらもいつしか劇中世界の住人になっていた。思い出したのは2007年5月に公開された映画「しゃべれどもしゃべれども」(監督平山秀幸)。落語家の今昔亭小三文に扮した伊東が高座で披露したのが、確か「火焔太鼓」だった。公開から14年が過ぎ、伊東も傘寿を3つ超えたが、相変わらずの達者ぶりが嬉しい。
戸田恵子、竹内都子、おおたけこういち、長谷川慎也、山城屋理紗と共演陣も充実。中でも堺小春には目を見張った。演出の石井が「今回私のツボは堺正章さんの娘、つまり堺駿二さんの孫である堺小春ちゃんと伊東さんとの共演。その喜劇のDNAの橋渡しにちょっと感動している」とパンフレットに書いた気持ちがよくわかる。
堺正章(74)と岡田美里(59)の次女。04年、10歳の時にミュージカル「アニー」でデビュー。本名の栗原小春をそのまま名乗った。学業優先のため07年に活動を休止したが、15年に舞台「転校生」で8年ぶりに復帰。この時に「堺の名前を継ぎたい」と主張して改名したという。
舞台上で彼女はしなやかに躍動していた。伊東や戸田を相手に臆するところもなく伸び伸びと演じ、コメディエンヌとしての才能を感じさせた。いまや堺駿二と聞いてピンと来る人は少ないかもしれないが、250本を超える映画や舞台で多くの人に愛されたコメディアン。68年8月10日に54歳の若さで亡くなっている。「その姓を継ぎたい」という気持ちにはジーンと来た。3月10日に27歳になったが、これからどんな女優さんになっていくか、楽しみな存在だ。
さて同公演、コロナ禍で地方公演の予定はないと聞くが、WOWOWで5月に放送が決まったそうだ。地方のお客さんも喜ぶに違いない。