大河「青天を衝け」タイトルバックの作り方
2021年03月26日 11:30
芸能
大河に起用されたのなぜか。NHKの松木健祐ディレクターは「大きく二つある。一つ目は、ちゃんと『人間』にスポットを当てられる人がいいと思った。渋沢栄一は日本資本主義の父と呼ばれるだけあって、皆さんの中でスマートな経営者のイメージが強いかもしれない。しかし、実像はスマートなだけじゃない。常に汗をかき、自ら動いて言葉を発するという行動の人。そんな栄一の『熱』を抽出し、映像に落とし込める方にお願いしたいと思った。柿本さんの映像は、人間の熱にフォーカスをあてた作品が多いと感じていた」と明かす。
二つ目の理由として、松木氏は「多角的な視点を持っていることも大事。英一は幕末から昭和にかけて、時代も身分も、時には国をも超えていった。柿本さんもCM、MVにとどまらず、映画や写真、国を超えて活動の場を広げている。それらで培われた多角的な視点をこのタイトルバックに生かしてもらいたいと思った」と説明する。
完成したタイトルバックは、過去のドラマで例のない不思議な映像。柿本氏は「栄一のジェットコースターのような人生を一筆書きのような流れで表した」と話す。
撮影では最先端映像技術「ポリュメトリックキャプチャ」を使用。360度、150台のカメラで被写体を捉えて空間全体をデータ化する技術で「人数が多いとデータが欠ける弱点があるが、その弱点を強みに変えた。水墨画の手法を用い、にじんで空間に溶けていくようにした」と柿本氏は説明する。
途中のミュージカル風の場面が印象的。柿本氏は「渋沢栄一は人生を踊るように生きた人間だと思う。『大河でミュージカル』という意外性も栄一の人生を表すものとしてしっくりきた」と話す。
松木氏は「うれしかったのは視聴者の皆様からのお手紙。『ミュージカル調の振り付けが、栄一の駆け抜けるような人生を表していて、ラストの拳を突き上げる様も、ブロードウェイのようだ』と言って頂いた。きっと、躍動する吉沢亮さんの熱を、うまく表現できたのだと思う」と手応えを強調。「これまでとは毛色の違う主人公だから、タイトルバックもこれまでとは違うものを作ろうという思いからスタートし、同時に、これまでの大河ファンの皆様にも愛されるものにしたいと思っていた。『いい意味で大河らしくない』という感想がとてもうれしい」と喜んでいる。
柿本氏の革新的な1作として長く記憶に残るものになった。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。