名優・田中邦衛さん死去 88歳老衰、家族に見守られながら天国へ…みんなに愛された「北の国から」五郎役
2021年04月03日 05:30
芸能
13年暮れに女性週刊誌が俳優引退を報じるなど、表舞台から遠ざかっていた。遺族によると「最期の日まで、皆さまからの励ましを支えに、前向きに生きる気力と、周囲への感謝を持ち続けていた」という。
休業中は老人ホームへの入居や、高熱で2週間入院し寝たきりになったことで足の状態が悪化し、一時車いす生活になったことが明らかに。17年に回復に向かい、自宅に戻ったと報じられたが、近所の住民によると「ずっと老人ホームに出入りを繰り返していて、ここ1、2年はかなり体調を崩していたと聞く」という。最近は医療・介護チームのサポートを受けながら、家族との充実した時間を過ごしていた。本人の「静かに見送って」との意向で葬儀は家族葬で済ませ、お別れ会やしのぶ会を行う予定もない。
10年公開の映画「最後の忠臣蔵」がラストの作品となり、最後に公の場に姿を見せたのは12年8月6日。東京都港区の青山葬儀所で営まれた、代表作「北の国から」など多くの作品で共演した盟友の故地井武男さんのお別れの会だった。
発起人の一人として参列した田中さんは「北の国から」で息子を演じた吉岡秀隆(50)のサポートを受けて祭壇の前に立ち「おいらまだ信じられない」「会いたいよ!地井兄(にい)、会いたいよ!」と遺影に語り掛けて涙を誘った。
地元の岐阜県で臨時教員を務めたのち、1958年に俳優座に。のちフリーとなった。61年に加山雄三(83)主演の映画「大学の若大将」での“青大将”が好評でシリーズのレギュラー入り。73年に始まる「仁義なき戦い」シリーズでは、ずる賢いヤクザを怪演。アクの強い風貌と、どこか憎めないコミカルなキャラクターで愛された。
最大の当たり役は、81年にスタートした「北の国から」の父親・黒板五郎。倉本聰氏(86)の脚本、杉田成道氏(77)の演出で、02年まで続く国民的作品となった。
生真面目でシャイ。トーク番組の誘いも極力断ることで有名だった。98年11月に山形在住の映画パーソナリティー・荒井幸博氏(63)の強い要請に応えて夫人同伴で初めて天童市でトークショーに臨んだ。地元民の歓迎に感激し、以来何度も山形を訪れていた。
長女の田中淳子さん(56)はNHK初の女性海外支局長(シドニー、のちワシントン)として活躍。現在はNHK広報局長を務める。夫人は引退騒動の際「引退も何も、田中邦衛の人生そのものが役者ですから」と語っていた。無二の個性を役柄に注入し続けた人生は、静かにカーテンコールを迎えた。