人気カウンセラー・月夜見さんと漫画「バガボンド」

2021年04月03日 09:00

芸能

人気カウンセラー・月夜見さんと漫画「バガボンド」
カウンセラーの月夜見さん Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】月夜見(ツクヨミ)さんは今、YouTubeなどで注目される人気カウンセラーだ。
 一昨年5月に都内のサロンでカウンセラーを始め、昨年11月に独立。相談者らの評判が口コミで広がり、現在は予約を取るのが極めて困難で、およそ6000人がキャンセル待ちしているという。

 YouTubeを見ると、何より、話が楽しい。「悟り=聖人君子ではない。正しいか正しくないかよりも、楽しいか楽しくないか、好きか嫌いかで決めた方が後悔が少ない」。話の中に英国の理論物理学者ホーキング氏とノーベル物理学賞受賞者ペンローズ氏の「特異点定理」も出てくる。学術的だ。そして、「私が言うことは基本的に信じてほしくない。何かを信じた途端に思考は停止する」と正鵠(せいこく)を射る。

 そんな人物が「これを読めば、私の占いはいらない」と薦める作品が、漫画「バガボンド」だ。

 「バガボンド」は、バスケットボール漫画「SLAM DUNK」などで知られる井上雄彦氏の作品。剣豪・宮本武蔵を主人公とする物語で、1998年に「週刊モーニング」で連載が始まり、単行本が37巻まで刊行されている。

 なぜ、この漫画が人気カウンセラーの心を捉えたのか。都内のビルの一室で、月夜見さんに話を聞いた。

 「小学生の時から7回くらい読み返しています。毎回、角度が変わる。年齢によって違う。悩んでいる時に読むと、答えがだいたい描かれています」

 例えば、37巻で、武蔵が村の女性たちに剣術を教える場面。棒を振る練習を勧める際に「腕はないと思って振って」と助言し、腕に力を入れることは「自分を縛るだけ」と解説する。

 「人生もそうです。力が入っていると、余計なことを意識していることが多い。いかに力を抜くかで、良い仕事ができます」

 36巻で、村の長老が死を迎える場面。かたくなな男に「神様は見てる」と忠告し、息を引き取る間際に「やっと土になれる」とつぶやく。

 「実際に神様は見ていない。本体の魂がそういう役割をしています。『神様は見てる』はうそであって本当。作者は分かっていて描いていると思います。『やっと土になれる』は食物連鎖をイメージします。私たちが動物をいただくのも全て愛。元々、この体は私のものではなく地球のもの。そういうことがこのページから読み取れます」

 この漫画の連載は2015年から止まったまま。作者が描くのに相当に苦労する大作であることがうかがえる。

 「武蔵が唯一、社会と関われるのが斬り合うことでした。吉岡一門を倒して、それ以上がなくなり、根詰まりを起こした。行き着いたのが田んぼを耕すことで、いちばん精神的に苦痛だった時期だと思います。極めようとした分野に、それ以上がなくなった。作者が描けなくなったのは合点がいきます。『バガボンド』はどのページにも無駄がないので、1巻から通して読むといいです」

 重厚な作品であるがゆえに全巻読み通すには時間がかかりそうだ。

 「お酒を飲みながら読むと、より良いです」

 月夜見さんは、ほほ笑みながら、そう助言してくれた。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。
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